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2008年度に始まったふるさと納税に6月から法規制が導入される。「地域振興に資する」「返礼品目当てで本末転倒」。その評価は毀誉褒貶(ほうへん)が相半ばしている。制度が独り歩きして生まれた巨大な官製需要はどこに向かうのだろうか。

平戸市が寄付受け入れ額の減少に冷静なのは、市当局と事業者がともに、早くからふるさと納税への過度な依存を戒めてきたこともある(写真=菅 敏一)

「宝くじに当たったようなものだったね」「いい夢を見させてもらった」──。九州西端に位置する長崎県平戸市は、ふるさと納税で2014年度に全国最多となる14億6300万円の寄付金を集めた。返礼品を扱う地元の業者に当時の様子をたずねると、一様にこんな感想が返ってきた。

 自分の選んだ自治体に寄付をすると、自己負担の2000円を超えた金額が上限付きで、所得税や住民税から控除されるふるさと納税は、08年度に始まった。カニや高級和牛といった豪華な返礼品が登場してブームとなり、どこの職場でも利用している人が必ずいるほどに定着している。

 平戸市は全国に先駆ける形で、魚の干物や牛肉、イカやヒラメの刺し身といった地元の特産品を一覧できる返礼品のカタログを作成し、積み立てて好きな時に返礼品と交換できるポイント制を整えた。クレジットカード決済の導入で先行したことも功を奏し、全国トップに立った。

 全国1位の自治体としてメディアに取り上げられたこともあって、翌15年度に寄付額は26億円に増えたが、その後は減少。17年度は10億7300万円で、18年度は6億2000万円弱まで落ち込む見通しだ。自治体間の返礼品競争が激化したことに加え、総務省の自粛通知に従って返礼品を見直したことも響いた。しかし、市職員や地元業者らの間に悲観する様子はない。

生産のキャパを完全にオーバー

 人口3万2000人足らず、市内総生産800億円程度の平戸市。突如として多額のふるさと納税マネーが流入した結果、14~15年度当時、農林水産品の生産や加工の現場は混乱を極めた。

 なかでも「伊勢エビよりおいしい」としてテレビの全国放送で取り上げられたウチワエビには注文が殺到した。地元業者でつくる物産直売所「平戸瀬戸市場」では、13年6月から14年5月に331件だったウチワエビとサザエやカキといった貝類の詰め合わせセットへの注文が、翌年の同時期に7075件、翌々年には7588件にまで急増した。

 一時期は寄付から返礼品が届くまで半年待ちの状態になったという。担当の高木和明氏は「漁師に掛け合って何とか確保していたが、出しても出しても注文に追い付かない。本当にてんてこまいだった」と述懐する。その後、平戸瀬戸市場はウチワエビと貝類の詰め合わせセットを返礼品に出品するのをとりやめた。

 狂騒曲は海産物に限らず、地元野菜や果物の詰め合わせセットでは、農家の庭先になっているかんきつ類やサツマイモの葉を詰めて急場をしのいだ。市のふるさと納税推進班の近藤善弘氏は「平戸の資源が枯渇するんじゃないかと本気で心配になった」と当時を振り返る。

 都道府県や市町村が提供する教育や福祉、ゴミ処理といった生活に身近なサービスを賄うための「地域社会の会費」──。個人住民税はこのように定義づけをされている。

日経ビジネス2019年3月25日号 58~62ページより目次