居住地でない自治体に個人住民税が移動するふるさと納税は、この定義を逸脱するものと言える。原理原則を順守する官僚なら立案しないであろう異例の制度の誕生は、ある大物政治家の存在を抜きにしては語れない。在任期間が歴代最長の官房長官として辣腕をふるう菅義偉氏だ。

 07年当時、総務相だった菅氏はふるさと納税の制度設計を省内に指示した。地方で生まれ育ち、都会で就職した人が、故郷に恩返しできる仕組みをつくるのが狙いだった。08年度のスタートから数年間は、全国の寄付額の合計が100億円程度で推移していた。規模が急速に広がるきっかけとなったのは、15年の制度拡充だ。

菅氏の肝煎りで制度が始まった
●ふるさと納税をめぐる主な出来事
菅氏の肝煎りで制度が始まった<br /><small>●ふるさと納税をめぐる主な出来事</small>

 個人住民税の控除額の上限が1割から2割に拡大されたほか、「ワンストップ特例制度」も導入された。この特例は確定申告不要のサラリーマンや公務員なら、寄付先が5自治体までの場合、確定申告の手続きなしで控除を受けられる仕組み。いずれも菅氏の強い意向で実現したとされる。

 制度の拡充もあって、ふるさと納税の“市場”は15年度には前年度比4.25倍の1652億9000万円にまで急成長。そうした中で行き過ぎた返礼品競争が問題視されるようになってきた。制度に詳しい神戸大学の保田隆明准教授は全体像をこう説明している。「ふるさと納税はまず住民税の8割を全自治体に担保する。その上で、残りの2割を全自治体が1つのプールに拠出する。それを1741ある市区町村で殴り合って取り合いなさいと言っている」。つまりゼロサムゲームだ。総枠が決まっているなかで、ほかの自治体から税収を奪うという性格上、カニや高級和牛に始まり、果ては商品券に家電やパソコンまでと、返礼品競争はエスカレートの一途をたどった。

5000億円規模にまで成長
●全国のふるさと納税の寄付額の推移
5000億円規模にまで成長<br /><small>●全国のふるさと納税の寄付額の推移</small>
注:2018年度は見込み

 事態を重く見た総務省は17年4月、当時総務相だった高市早苗氏の名前で、寄付額に占める返礼品の調達額の割合(返礼率)を3割以下に抑えるよう全国の自治体に通知。換金性の高いものや高額な商品を贈らないことも併せて求めた。総務省の市町村税課長まで自ら電話をかけて個別に自治体に見直しを求めたこともあって、一時は鎮静化に向かうかに見えた。

 17年8月の内閣改造で野田聖子氏が総務相に就任すると、返礼品については自治体の判断を尊重するといった旨の発言をした。その真意は首長の良識を信じるといったものだったとされるが、一部自治体は総務省が返礼品競争の容認に転じたと受け止め、見直し機運は一気にしぼんでいった。

(写真=左:共同通信、中:Bloomberg/Getty Images、右:つのだよしお/アフロ)
(写真=左:共同通信、中:Bloomberg/Getty Images、右:つのだよしお/アフロ)

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