全員で行動指針を作る、日本一勉強する、離職者を発掘する……。社員が力を発揮する会社は、驚くほど徹底して人材に投資している。GPTW「働きがいのある会社」ランキングからユニークな取り組みを探った。
5項目の行動指針、それぞれにテーマカラーを設定(右)。月に1度の「カラーデー」には、その色の服を着て出社する。この日のカラーはピンク(「Happy-Happy」、顧客の幸せが私の幸せの意)
企業文化を共有
ビジネスでは日々、業務上の判断を迫られるが、正解は決して1つではない。判断に迷った時に立ち返る基準があるかないかで、状況は大きく変わってくる。
企業特有の価値観や文化というよりどころがあれば、判断に悩むことが減り、社員が自分で考える力も養われる。
ITシステムを手掛けるコンカー(東京・中央)は、自社の価値観や文化を社員全員で共有する取り組みを丁寧に続けてきたことで、中規模部門(従業員100人以上999人以下)で2年連続1位に輝いた。
同社の価値観や文化を端的にまとめた「コンカー・ジャパン・ビリーフ」は、社会的な使命であるミッション、2022年時点の売上高や会社規模などの数値目標を盛り込んだビジョン、社員一人ひとりの行動指針であるコアバリューの3つから成る。
このうち、コアバリューは、「Happy-Happy(顧客の幸せが私の幸せ)」「Drive Everything(高い視座を持ち、率先して動こう)」などの5項目を掲げる。これを決めたのは、経営陣だけではなく、社員自ら。18年7月に開催されたコアバリューを検討する全社員参加のワークショップでのことだった。
コアバリューの普及にも率先して社員が動く。社員有志が立ち上げたタスクフォース「わくわく推進室」では、5つのコアバリューごとにイメージカラーを設定。19年初めからイメージカラーのシャツやネクタイなどを身に着けて勤務することでコアバリューについて改めて考える「カラーデー」を導入した。また、コアバリューをより身近に感じさせるために、社員の働き方のあるべき姿を漫画で描くプロジェクトも進行中だ。
価値観や文化を共有する一方で、多様な意見が出てくる環境づくりも欠かせない。コンカーでは、課題をお互いに指摘し合う“フィードバック”を大事にしている。とかく日本人は、相手に面と向かって意見することが苦手。遠回しな表現が、互いの理解の妨げになるケースも多い。
耳が痛いことでも率直に相手に伝えられる風土をつくるため、感情的な対立を生まない正しい伝え方と受け止め方を身につける「フィードバック研修」を実施。フィードバックは相手の成長を願ってするものという大前提を置く。その上で、事前に一言「フィードバックがあります」と断るルールも設けて単なる批判ではないことを明確にするなど、社員の間に遺恨が残らないよう工夫している。
こうした取り組みで課題となるのは、新たに入ってくる社員の存在だ。
コアバリューの文面は、一見すると青臭い。白けたりばかにしたりする人が入社すると、せっかく社員総出で作り上げたものも台無しになる。だからこそ採用では、志望者の能力や経験のみならず、感性や人柄まで吟味して厳選する。
そのため、応募者のうち採用に至るのはわずか2.7%にとどまる。会社の業績は伸びており、慢性的な人手不足ではあるが、「営業経験や技術知識がどれだけ豊富でも、共鳴できない人間は入り口で断る」(三村真宗社長)。
築いてきた文化や価値観を守るためには、決して妥協しない。
5次まで選考して離職回避
小規模部門(従業員25人以上99人以下)39位、注文住宅の建築などを手掛ける楓工務店(奈良市)は、新卒採用を何と5次選考まで行っている。度重なる選考で、150人ほどの志望者を最終的に1桁に絞る。
楓工務店では、社員は“家族”。本社の共有スペースにはテーブルやソファセット、暖炉などがあり、昼休みには社員が仲良く食事をとる(写真=今 紀之)
中小でしかも地方となれば、人材確保の厳しさは増す。だからといって、やみくもに採用してもすぐに辞められては、採用コストがかさむばかり。
田尻忠義社長は「表面的な部分やいいところばかりを伝えて入社してもらっても、定着しない。離職されると、会社と当事者の双方にとって損失になる。就職は結婚と同じ。数十分の面接だけでは理解し合えない」とぶれない。
新卒採用を始めたのは14年入社から。これまでに29人を採用してきたが、徹底して志望者の希望と自社の業務にギャップがないかを見極めてきた結果、離職者は1人も出ていない。
5次に及ぶ選考回数も異例だが、その中身も独特だ。筆記試験はない。グループワークや1泊2日の合宿を通じて、志望者に「本当にやりたいこと」や会社にどう貢献できるかをじっくり考えてもらう。
そして、「楓工務店の価値とは何か」といったテーマで各自がプレゼン。実際に社員になったつもりで考え抜かなければ答えが出ない課題と向き合うことで、入社後の自分の姿を想像させる。
説明会や懇談の場を含め、選考には、約50人の全社員が参加。志望者に、楓工務店での仕事の喜びや楽しさ、社内の温かい雰囲気を伝え、“楓のファン”になってもらう。社内からは「未来の後輩が会社のことを真剣に考えている姿を見ると刺激になるし、初心に返る機会になる」との声も上がる。選考が社員のやりがいの維持にもつながっている。
順位 | 昨年順位 | 会社名 | 所在地 | 業種 |
1 | 4 | セールスフォース・ドットコム | 東京都千代田区 | クラウド型顧客関係管理システムの提供 |
2 | 2 | Plan・Do・See | 東京都千代田区 | ホテル・レストラン・ウエディング会場の運営 |
3 | 3 | ディスコ | 東京都大田区 | 精密加工装置の製造・販売 |
4 | 5 | アメリカン・エキスプレス | 東京都杉並区 | 金融事業、旅行関連事業 |
5 | 6 | プルデンシャル生命保険 | 東京都千代田区 | 生命保険業 |
6 | 7 | モルガン・スタンレー | 東京都千代田区 | 金融サービス業 |
7 | 12 | DHLジャパン | 東京都品川区 | 国際物流サービス |
8 | 10 | LAVA International | 東京都港区 | ヨガスタジオ運営 |
9 | | テイクアンドギヴ・ニーズ | 東京都品川区 | ウエディング・レストラン・ホテル事業 |
10 | 9 | ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ | 東京都千代田区 | 医療用医薬品・健康関連用品の輸入・製造・販売 |
11 | 19 | レバレジーズグループ | 東京都渋谷区 | メディア・人材・IT事業 |
12 | 15 | 日本イーライリリー | 神戸市 | 医療用医薬品の製造・販売 |
13 | 18 | アッヴィ | 東京都港区 | 医療用医薬品の製造・販売 |
14 | 14 | 東京海上日動システムズ | 東京都多摩市 | 情報システム |
15 | | JSOL | 東京都中央区 | ITコンサルティング業 |
16 | 8 | イケア・ジャパン | 千葉県船橋市 | 小売業 |
17 | 17 | アクセンチュア | 東京都港区 | 総合コンサルティング業 |
18 | 21 | SAPジャパン | 東京都千代田区 | ビジネスソフトウエア開発・販売 |
19 | 16 | 三幸グループ | 東京都新宿区 | 各種学校運営、人材派遣 |
20 | 11 | パーソルキャリア | 東京都千代田区 | 人材サービス |
21 | 20 | ルネサンス | 東京都墨田区 | スポーツクラブ事業 |
22 | 24 | 東急リバブル | 東京都渋谷区 | 総合不動産流通業 |
23 | 22 | 大和リース | 大阪市 | 建物の請負・リース |
24 | | ギャップジャパン | 東京都渋谷区 | アパレル製造・小売業 |
25 | | 3Mジャパングループ | 東京都品川区 | 化学工業用製品の製造・販売 |
調査概要 |
Great Place to WorkⓇInstitute Japan(GPTWジャパン)が実施。参加企業480社のアンケート結果を点数化し、一定レベルを超えた145社を「働きがいのある会社」として発表した。定義は「従業員が会社や経営者・管理者を信頼し、自分が行っている仕事に誇りを持ち、一緒に働いている仲間と連帯感を持てる会社」。構成要素はマネジメントと従業員の間の「信用」「尊敬」「公正」、従業員が仕事に持つ「誇り」、従業員同士の「連帯感」の5つ。 |
アンケートは企業向けと従業員向けの2種類で、点数の重みづけは1対2。企業向けは企業理念や風土、人事施策のほか、男女構成比率、福利厚生などを聞く。従業員向けは経営陣や管理者層の姿勢と行動、仕事や会社に対する誇り、職場の連帯感などについて。GPTWジャパンと外部有識者からなる委員会が精読し点数をつける。会社が従業員に特定の回答を強制した場合は失格になることもある。アンケート項目はグローバルで統一。ランキングはエントリー方式で、従業員25人以上の会社が参加できる。 |
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