千葉県銚子市で1856年から続くという老舗そば・うどん店が7月末、閉店した。伝統の味を守ろうと、機械化を避けて毎日11時間かけてきた仕込みが、逆に身体の負担になった。いい味を提供できなくなる前にとの苦渋の決断だが、客からは閉店を惜しむ声も多い。

[島彦本店代表]
飯塚治氏
1964年生まれ。高校卒業後、専門学校で簿記や経営を学んだ。東京・品川の個人店で見習いをしたのち、21歳で実家に。88年に代表となり6代目として「島彦本店」を継いだ。58歳。店舗を東日本大震災後に建て替え、現在に至る。

 1856(安政3)年から代々、銚子のこの地でそば・うどん店を営んできました。私は6代目として約30年間営業を続けてきましたが、5年前に体調を崩し、これ以上は無理があるということで顧問税理士や先代の友人の方に相談に乗ってもらい、2022年7月末で閉店・廃業しました。まさに苦渋の決断でした。バタバタするよりは計画的にやろうと。

 基本的にお客さんの7割から8割がリピーターでした。観光客の多くは海の方、砂浜と岬に行きますから、来店は多くありません。地元や周辺の県・市から、電車や車で来ていただいていました。今回、そうしたお客さんにご報告と、御礼をさせてもらったところ、涙ぐまれる方や再開を希望される方もいて非常にありがたかった。

利根川に近く、昔は渡し船を待つ間にそばを食べる客が多かった
利根川に近く、昔は渡し船を待つ間にそばを食べる客が多かった

毎日11時間かけて仕込み

 閉店の理由は製造方法にあります。営業時間は午前11時から午後3時までの4時間でしたが、実際に仕込みといわれる製造時間が朝の5時から11時まで、午後は1時から6時まで。合計11時間が単純に「仕込み」、つまり製造にかかります。

 具体的には朝の5時からかつお節を削り、だしをとり、そばやうどんを打って踏みと寝かしをします。アナログな方法なので大量生産ができません。今まで何回も機械による大量生産や、冷凍食品の活用などを検討しましたが、結局、変えませんでした。3世代ぐらい前のお客さんから「変わらない味だね。変わらないことが一番大事。おいしい、まずいは人の嗜好だけど、いつ来ても変わらないのはお店の姿勢」と言われたことがあります。自分にとっては素晴らしい名言だなと思って、それを一つの糧にやってきました。

 ですが、自分だけでなく従業員も高齢になり、無理をさせてしまうと安定した味が出せなくなります。そうなると結局お客さんを逃して負の連鎖に陥ってしまう。売り上げが下がり、営業利益が下がって、ジリ貧になって畳む、という飲食店の最悪の経路をたどってしまいかねない。そうなるくらいなら安定した味が出せる時に閉店したほうがよいと思い、決断しました。

 自分なりに大事にしてきたのは接客です。お客さんが何を求めているか、言われずとも気が付いてすぐ対応することです。「フレキシブルに動けて、ケース・バイ・ケースの応対ができること」、これを毎日毎日お客さんごとに継続し、今につながった。新型コロナウイルス禍でもリピーターが減らなかった理由でもあっただろうと、多少の自負はあります。

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