北海道・知床半島沖で小型観光船「KAZU1(カズワン)」が沈没した事故から4カ月余り。知床観光の拠点、斜里町は観光のハイシーズンを迎えたが、コロナ禍も重なって客足の回復は鈍い。乗客の捜索活動は今も続いており、「知床に来てくださいとはまだ言いづらい」と苦悩を明かす。

野尻勝規氏
4月23日、観光船運航会社「知床遊覧船」の船舶、カズワンが海難事故を起こしました。乗客・乗員計26人のうち14人が亡くなり、(8月下旬時点で)12人が依然として行方不明という大惨事となりました。知床遊覧船は当観光協会の加盟企業であり、私は会長として責任を痛感しています。捜索活動は今も続いていますが、全員がご家族の元へ帰っていかれることを切に願っています。
事故発生から4カ月余りが過ぎましたが、知床観光に携わる者として何カ月が過ぎようが「区切り」というものはありません。事故の記憶は今後もずっと背負い続けなければいけません。それほど大きな事故でした。今も斜里町役場には献花台が設けられ、被害に遭われた関係者や道内外の来町者が献花に訪れています。
斜里・羅臼両町にまたがる知床は2005年7月、世界自然遺産に登録されました。ヒグマやシャチなど野生動物を観察する観光船と、知床連山や知床五湖へのトレッキングなどを楽しむネーチャーガイドの2つが、観光業の柱です。閑散期だった2~3月に実施する流氷や厳冬期の自然と触れ合うエコツアーなども、近年は人気を集めています。一年を通して観光客が来るようになり、斜里町への年間観光客数はコロナ禍前まで、日帰り客と宿泊客の合計で約120万人に達していました。それがコロナ禍後の20年に71万人、21年には53万人まで落ち込んだので、観光業界として22年の反転攻勢にかける思いは強かったです。
ですが、事故は町の観光業に大きなダメージとなりました。今年4~7月に斜里町を訪れた観光客は約20万6000人で、前年同期比7割近く増加しましたが、コロナ前の19年の同じ時期と比べれば43%のマイナスです。北海道のほかの観光地と比べて、回復が遅れてしまいました。5月の連休を控え、観光関係者みんながやる気になっていた矢先の事故でした。観光関係者のみならず、約1万1000人の全町民の心に暗い影を落とす出来事となってしまいました。
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