神戸土産として一時代を築いた「瓦せんべい」の老舗が閉店した。明治時代に創業し、その歴史は2カ月の廃業をはさんで154年という長きに及ぶ。従業員の高齢化とコロナ禍にはあらがい切れず、名店は幕を閉じた。

堀木利則氏
2022年3月21日、神戸市の「菊水総本店」を閉めました。閉店間際の約2週間は、以前から購入いただいていたお客さんが多く訪れてくれました。最終日は開店2時間前の朝7時に行列ができたほど。横浜からわざわざ足を運んでくれた人もいて「ごくろうさんでした」とねぎらいの言葉をかけてくださった。これまで長い間、菊水の瓦せんべいを選んでいただき感謝の気持ちでいっぱいです。

神戸には瓦せんべいを販売する老舗がいくつかあり、菊水はその一つでした。創業は1868(明治元)年。その4年後に社殿が完成する予定だった湊川神社で、氏子らが瓦を寄進する様子を見た創業者がひらめいて生まれたせんべいです。
湊川神社の祭神は南北朝時代の武将、楠木正成。地元では親しみを込めて「楠公(なんこう)さん」と呼んでいます。もともと創業者は楠公さんを崇拝しており、神社ができる前からあったお墓をお守りしていました。店名の菊水は楠公さんの家紋からきたもので、瓦せんべいにはその勇姿の焼き印が押されています。
社名や会社ロゴ入りも
原材料は小麦粉、砂糖、卵、はちみつに膨張剤。これらの材料が手に入れられたのは、日本が開国へとかじを切った1868年に神戸港を開港したことも影響しています。外国文化が流入し、それまで一般庶民になじみのなかった小麦や砂糖が手に入りやすくなりました。当時は、「ハイカラセンベイ」と呼ばれるなど和風洋菓子の先駆け的な存在でした。
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