役員による「国の雇用調整助成金の不正受給につながりかねない行為」があったことが発覚。労働組合の委員長と書記長が勤務記録を改ざんしていたことも判明した。コロナ禍で続いた不祥事にショックを受けながらも、再び愛される「富士そば」を目指す。

[ダイタンホールディングス社長]
丹 有樹氏
1974年生まれ。98年慶応義塾大学経済学部を卒業した後、テニスコーチとして身を立てる。2004年にダイタンフード取締役、07年にダイタンホールディングス専務、15年から現職。同社創業者である丹道夫氏の長男。神奈川県出身。

 首都圏で約120店を構える立ち食いそば店「名代 富士そば」を展開するダイタンホールディングスを経営しています。2020年、労働組合から「グループ会社で、国の雇用調整助成金の不正受給につながりかねない行為があった」との報告が上がりました。役員が、従業員が実際には働いているにもかかわらず、休んだように見せかけるよう指示していたというのです。

「名代 富士そば」は「小諸そば」と並び、全国的にも最大級の立ち食いそばチェーン(写真=西村尚己/アフロ)

 具体的には、時期は20年5~6月で、タイムカードを一部の従業員に押させず、「特別休暇」を取得したことにしようとした、という報告でした。特別休暇は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対し、国が休業手当の一部を支給する「雇用調整助成金」の対象になります。実際には休んでいませんので、事実であれば、虚偽の申告をして助成金を不正に受給しようとしたと言われても仕方ありません。

不正受給は未然に防ぐ

 幸いにも現場の判断により、当該幹部の指示に基づく処理は未然に防ぐことができました。が、こうした問題が起きようとしたこと自体、経営者としての責任を痛感しています。

 さらに、この件とは別に労働組合からは、当該役員は一部社員の残業時間についても、実際より短く申告するよう指示していた、との報告もありました。例えば、午後3時半まで勤務していたのを午後3時にせよといった指示です。

 組合から指摘を受け、直ちに対策を講じるとともに、当該役員は降格処分にしました。今後は再発防止の徹底およびコンプライアンス体制の充実に努めたいと思っています。

 ただ今回の問題については、より複雑な背景もあります。

 労働組合からの通告で不正行為の芽を発見できたのは事実ではありますが、当社と労働組合は昨年来、対立する関係でもありました。そして結論から言えば、当該役員を告発した組合の委員長と書記長もまた、勤務記録の改ざんをしていたことが発覚し、21年1月29日付で両名に懲戒解雇処分を出しました。

 勤務記録を巡り、一体当社で何が起きているのか、この場を借りて説明したいと思います。

未払い残業代などを求めた労働組合の会見。(写真=朝日新聞社)

 事の発端は、昨春の労働組合の結成に遡ります。組合は結成まもなく会社側に2つの通告をしてきました。一つは、既に説明した当該役員の行為の告発。もう一つが、二十数人分の未払い残業代約4億円の要求でした。

 前者については、会社として事実を認めたのはお話しした通りですが、後者については簡単に支払える金額ではなく、「確かに勤務記録以上の残業をしていた、という証拠を出してほしい」との要望を組合側に出し、労働審判になりました。

続きを読む 2/2 今も測りかねる本心
日経ビジネス2021年3月22日号 116~117ページより目次

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