2021年正月の箱根駅伝。最後の最後にまさかのドラマが用意されていた。前半から独走していた創価大学が突如として崩れ、駒沢大学に逆転されて2位に沈んだ。アンカーが襷(たすき)を受けた時の差は3分19秒。リードを守れなかったのは自分の責任と話す。

榎木和貴氏
2020年度の目標は、箱根駅伝で3位以内に入ることでした。普段以上の力を出した選手もいましたし、想定を上回るいい流れになりました。テレビの実況アナウンサーは「悔しい2位」と表現されましたが、指導者としては「評価できる2位」だったと思います。
ただ、優勝が目前だったのも事実です。期待して応援していただいた方々には、残念な思いをさせてしまったという申し訳ない気持ちがあります。

敗因は、私の指導力不足に尽きます。確かにアンカーの選手が崩れる形になりましたが、大量リードで襷を受けた彼の微妙な精神状態を見極めきれず、自信を持ってスタートさせることもできませんでした。他の選手を配置していても同じ状況に陥ったと思います。
駅伝において、メンタル面はパフォーマンスに大きく影響します。レース本番は普段よりも脈拍が速くなり、平常心でいるのは難しい。極端な緊張状態の中では、厳しい練習で培った自信や過去のレースで味わった悔しさといった気持ちの部分こそが、重圧と相手に打ち勝つ原動力となります。
走りに影響するメンタル
うちのアンカーも襷を受けた時は自分が優勝テープを切るイメージをしていたはずです。ただ、自滅するように崩れ、途中から体が動かなくなった。メンタルが影響したのだと考えています。
レース全体で事前から意識していたのは、いかに流れに乗るかでした。強豪校が4~5校あって、一度振るい落とされると盛り返すのは難しい。そのため、どんな展開になっても流れについていける選手に1区を委ねました。
前半、他校の有力選手が崩れるケースが相次ぎましたが、これは、新型コロナウイルス感染症の影響で競技日程がずれ、12月上旬に日本選手権の1万mが開催されたことの影響だと思います。うちは、12月以降は箱根一本に絞って脚作りをしてきましたから。
総合3位が目標なので、往路も3位以内を見据えていました。強い選手がそろう3区、4区をどうしのぐかがポイントでしたが、この区間でうちの選手が想像以上の力を出してくれました。可能性もあるのかな、とは思っていました。ただ、大差をつけての往路優勝は全く予想していませんでした。
翌日の復路の前には「先頭で走れる喜びをかみ締めながら走ろう」と選手に声かけをしました。選手に余計なプレッシャーを与えないよう、あえて優勝の言葉は口にしませんでした。
私も学生時代に走ったから分かるのですが、箱根駅伝で重要なのは、いかに精神的に最高の準備をして試合に臨むかです。プレッシャーが大きくなると不安要素は増幅します。体調面も大事ですが、メンタルの比重が大きいのが箱根という舞台なのです。
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