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新型コロナウイルス感染拡大で、訪日中国人客が激減し温泉旅館を閉館。宿泊客の9割が中国人だったため、売り上げの見通しが立たなくなった。固定費負担が重くのしかかり、東京五輪延期も苦渋の決断の要因となった。

[温泉旅館「華の湯」女将]
松島 典子 氏
1965年、静岡県富士市生まれ。2019年の夫の死後、旅館経営の傍ら、夫が社長だった人材派遣・食品加工会社「H&Nプランニング」(静岡県伊豆市)も引き継いだ。新型コロナ問題で同社も休業する方針という。

 2020年1月下旬、年間契約している中国の観光会社から「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、現地旅行客が日本へ渡航できなくなり、日本でのツアーを組めない」と言われ、4月末までの約90ツアー、延べ約3000人分の宿泊が急きょキャンセルとなりました。売り上げに換算すると、約1500万円分です。新型コロナウイルス問題で今後半年間は客足が戻らないだろうと思い、閉館を決意しました。従業員6人も身を切る思いで解雇しました。

 「残念」「やめないで」と励ましていただいた多くのお客様に対して「頑張りますので、新型コロナが収束したら、うちの旅館にいらしてください」と言えないことが悲しいです。このような事態になり、大変申し訳なく思っています。ただ、閉館というつらい選択をしましたが、新型コロナ患者の治療のために昼夜対応している医療従事者の方々のつらさに比べれば、何でもありません。新型コロナの問題が早く解決することを願うばかりです。

夫を看病しながら奮闘

 華の湯は、静岡県伊豆の国市にある伊豆長岡温泉旅館の一つで、客室は19室あります。弱アルカリ性の温質でとろみがあり、肌がつるつるになる「美肌の湯」としても人気でした。前オーナーからこの旅館を借りる形で、19年4月、リニューアルオープンしました。ところが、まさにこれからというときに経営者である夫が病気で倒れてしまい、私は夫を看病する傍ら、女将として働いてきました。

 旅館は、1階フロアにカフェダイニングスペースを設け、宿泊客のみならず、日帰り客にもゆっくり過ごせるように改装しました。Wi-Fiなどネット環境も整え、宿泊者が泊まる部屋の敷布団は有名スポーツ選手なども利用する高反発マットレスパッドも導入しました。