三重県の英虞湾で真珠養殖向けのアコヤガイにおいて大量死が発生。原因は不明であるうえ、被害はほかの真珠養殖地にも広がる。生産体制の整備のため、三重県の関連機関はサポートに乗り出した。

栗山 功氏
1972年生まれ。三重大学生物資源学部卒業後、三重県庁に入庁。県水産研究所の尾鷲水産研究室で11年間、魚類の養殖を担当。4年前から同研究所では真珠を担当する。主幹研究員として、3人いる真珠担当者のうち主担当を務める。
真珠養殖の母貝大量死の概要
日本有数の真珠の養殖地である三重県の英虞湾などで2019年夏、200万個超のアコヤガイの大量死が発生。死んだ貝はがいとう膜という部分が縮んでいる点が共通しているが、これまで夏にこの症状が表れたことはなく、詳しい原因などは分かっていない。同じ症状が長崎や愛媛の宇和島でも発生。被害が広がっている。
三重県志摩市の英虞(あご)湾とその周辺で、真珠養殖向けのアコヤガイが200万個超、今年の夏に大量死しました。原因は今のところ、分かっていません。来年同じ事態が発生するかどうかも不明であり、担当者として深刻に受け止めています。
特に「稚貝」の被害が大きい
大量死したアコヤガイは、「がいとう膜」と呼ばれる部分が縮む「がいとう膜萎縮症」の状態になっていました。この症状はこれまで、アコヤガイを冬場の低水温にさらしたときなどに確認されており、養殖業者からは「蛇落ち」と呼ばれます。冬場にある症状なのですが、夏場には今まではありませんでした。
死に至ったアコヤガイを調べても、がいとう膜の萎縮が衰弱につながるメカニズムは今のところよく分かっていません。私たち専門家にとっても未知の状況です。国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所などにサンプルを送っており、詳しい遺伝子調査などの結果を待っています。
この症状を最初に認識したのは7月16日のことでした。養殖業者から「こんな症状が出ている」という電話が1本あり、同じ日に英虞湾で定例の水質観測のときに現場で同じ話を聞きました。それでもこの2件だけでしたから、第一印象は「大ごとではない」でした。
それが2日ほど経過すると、「同じ症状が出ている」という話がいろいろな養殖業者から入りました。このため、県庁の担当らと相談して緊急アンケート調査を実施したところ、回答した業者の8割がこの症状に直面していることが判明。英虞湾とその周辺の真珠養殖地全体にこの症状が広がっていました。
さらに詳しく調べると、9月段階で死んだ貝は合わせて200万個超であることが分かりました。内訳は、真珠の元となる核を挿入する段階にある「3年貝」が約11万5000個、来年核を挿入する「2年貝」が約30万個、それ以前の「稚貝」が約167万7000個です。2年貝、3年貝では死んだ分が2割台であるのに対して、稚貝は7割が死んでおり、特に大きな被害が出ています。
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