1着馬の鼻を2着馬と錯覚

 誤審の原因は決勝審判を担当した2人の職員の錯覚です。着順判定はゴールライン延長線上のスタンド2階にある審判室でしています。2頭は毛色が似ており、双方のシルエットは重なっていました。ジョッキーも馬のお尻も、7番が前に出ており、2番の馬の鼻先を7番のものと誤解してしまったのです。

 写真判定となりましたが、午後8時5分に7番を1着馬として掲示板に表示しました。8時9分にはレースの成立を判定する裁決委員が確定ランプを点灯させました。誤審の発覚は8時15分でした。審判がホームページに上げる拡大写真を確認すると、2番の鼻先が前に出ているのが分かったのです。

 私が表彰式から戻ると、審判が真っ青な顔で「判定を間違えた」と伝えてきました。対処するにも前例が見当たらず、マニュアルもありません。裁決委員には地方競馬全国協会という業界団体から専門職員が来ているので、まず彼らと相談しました。

 そうしているうちに、過去に1件、類似例があることが分かりました。1986年、阪神競馬場で開催されたレースです。この時は2着と3着の着順を逆に判定したことが確定後に分かり、大混乱となったと聞いています。うかつには公表できないと考え、慎重に対処を検討しました。もちろん、監督官庁の農林水産省とも連携しました。

 結局、7番を1着とした着順確定は有効で、さらに正しい到達順位に基づく馬券に対しても支払うことに決めました。ネットで購入した方、窓口で購入して勝ち馬馬券を持っている方、誤審によって的中した馬券が手元にない方の3通りの対応が必要でした。

2人の決勝審判はレース後、馬体や騎手が前に出ているとみられた7番(手前)を1着と判定したが、実際には、首の上げ下げで2番(奥)の馬が先行していた
2人の決勝審判はレース後、馬体や騎手が前に出ているとみられた7番(手前)を1着と判定したが、実際には、首の上げ下げで2番(奥)の馬が先行していた

 購入件数は2万票弱で、その8割がネット購入でした。履歴は残っているのですが、決済システムは「不的中」馬券に払い戻す仕組みにはなっていません。そのため、人海戦術で拾い上げ、1件ずつ振り込む必要がありました。確認作業が多く、1カ月以上の時間を要してしまいました。

 馬券を持っている人は窓口で換金しました。馬券を持っていない人は購入した組み合わせや購入時間を所定の用紙に書き込んで郵送してもらうようにしました。券売機にも記録が残っているので、申請書はすべて確認し、購入の事実が認められた申し出に対してのみ支払いを実行することにしました。

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