板金加工機世界大手のアマダが、モノづくりとデジタル技術の融合を推し進めている。約250億円を投じて金属加工のイノベーション(技術革新)拠点をこのほど新設した。「誰でも熟練技能者になれる」時代を切り開く先導役となり顧客を囲い込む。
長野県上田市の板金部品メーカー、吉見鈑金製作所。工場ではアマダの板金加工機30台がうなりを上げる。板金加工機とはステンレスなどシートメタル(金属板)を曲げたり、レーザーで切り抜いたり、プレスしたりする装置だ。
吉見鈑金の受注ロット数は平均わずか3個。1日400品目を加工し、それらを全て3日以内に納入するほどの「少量多品種の板金コンビニ」(吉見昌高社長)だ。それだけに受注から生産、出荷まで高度な工程管理が求められ、いかに止まらない工場にするかが収益性の分かれ目になる。
アマダの生産管理ソフトで一点一点の加工状況をリアルタイムで追跡。アマダのCAM(コンピューターによる製造)ソフトを使えば、設計図面から最適な加工条件を自動ではじき出してくれるため激しい変種変量でもスムーズに生産を始められるという。「当社はデジタルを中心としたモノづくり。アマダはソフトのカスタマイズなど工場の『見える化』で応えてくれている」と吉見氏は語る。
装置を納入した後、能動的にモノづくり革新に関わることで顧客の収益を高める──。そんな「カスタマーサクセス」をモットーとして掲げるアマダの新たな成長のエンジンになりそうなのが、「アマダ・グローバルイノベーションセンター(AGIC)」だ。神奈川県伊勢原市のアマダ本社に2月に開設した。
とにかく大きい──。延べ床面積はサッカーコート約4面分に相当する約3万m2 。鋼鉄やアルミなどの板を切り抜いたり、曲げたり、溶接したりする機械がそこかしこに並ぶ。
顧客が一定期間、専用に使えるラボルームを9室そろえた。室内には様々な板金機械を備える。これとは別に金属成分を分析したり、加工精度を見極めたりする測定室も。キーエンス製などの高価な測定器がずらりと並び、加工精度を精密に検証できるよう室内温度はセ氏20度に保ってある。設備の充実ぶりからは、顧客の課題解決ではライバルに決して負けないという気概がうかがえる。
加工現場でAR技術が威力
顧客である金属加工会社は、アマダのエンジニアらとたっぷり時間をかけて新技術や高効率な生産ノウハウを追求。アマダは顧客の困りごとを拾い上げ、新たなソリューションサービスを考え抜く機会にする。“共創”の場として、アマダが顧客に寄り添った開発を進める心臓部になる。
「多彩な環境と機能を完備した。技術志向を一層強めていく」。アマダの磯部任社長は開所時の記者会見でこう力を込めた。構想から実現まで3年を費やし、用意した90機種のうち85%が新機種ということからも力の入れようが伝わってくる。
「誰でもどこでもデジタルモノづくり」──。アマダが打ち立てる旗印は、ずばりこれだ。AGICでのデモではアマダが持つ最新技術を随所に見ることができた。
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