セラミックスを電解質に使う蓄電池「NAS電池」を手掛ける日本ガイシが、電力小売事業者に変身を遂げている。同電池は2000年代に大容量、長寿命の「新電源」として注目されたが、原発再稼働の遅れから需要が急減した。モノ売りではなく、自らが電力小売りとして電池を使うことで収益機会を創出。長い低迷から抜け出そうとしている。

岐阜県東部、人口約4万8000人の山あいの街、恵那市。2022年4月、日本ガイシが75%、恵那市と中部電力子会社が12.5%ずつを出資する地域新電力の恵那電力(同市)が電力供給を始めた。
市内10カ所の公共施設に敷き詰めた総出力1200キロワットの太陽光パネルで発電。62カ所の公共施設と同社工場に電力を供給している。
恵那電力は供給量の10%を自然エネルギーで賄い、残りの90%は中部電力の小売り子会社から調達しており、恵那市の約半分の電力需要を担うようになった。一見、どこにでもありそうな地産地消型の新電力にみえるが、さにあらず。この電力ネットワークには陰の主役がいる。日本ガイシの専売特許ともいえる大型蓄電池「NAS電池」だ。
NAS電池は、電解質に同社おはこのセラミックスを使い、負極にナトリウム、正極に硫黄を使った2次電池。硫黄とナトリウムイオンの化学反応で充放電を繰り返す。日中や土日の太陽光発電所の余剰電力を電池に蓄えたり、逆に曇天で出力不足に陥ったときに放電したりする「調整役」を担う。
最大の特徴は1200キロワット時という容量の大きさだ。定格出力200キロワットで約6時間分の電気を充放電できる。最大のライバルである定置型リチウムイオン電池だと一般的に、同じ定格出力で3~4時間しか充放電できない。日本ガイシによると、キロワット時当たりのコストや製品寿命でもリチウムイオン電池に対し競争力があるという。一方で常温ではなく、加温しなければ稼働しない短所があるのも事実だ。
NAS電池の特徴はほかにもある。自然エネルギーの秒単位の変動にも追随できるレスポンスの良さだ。なかでも電力業界が一目置くのは、その時々でどれくらい充電、放電できるかが精緻に分かることだ。
「供給先に『あと何キロワット時の供給ができそう』ではなく、『供給できる』と確約できる2次電池はNAS電池くらい」と、恵那電力社長で日本ガイシエナジーストレージ事業部の村本正義管理部長は優位性を訴える。電気は需要と供給を常時一致させる「同時同量」が鉄則。それを実現する上でも、発電所にとって頼りになる相棒といえる。
Powered by リゾーム?