走行データを活用するテレマティクス保険で得た情報を、路面状況の把握など多方面に活用する。同分野で先行する英国企業の買収の陰の立役者が社長に就任し、地域課題の解決につながるサービス開発が進む。主力の自動車保険や火災保険の先行きが不透明な状況で、データを起点とした新たな事業モデルを確立できるか。

兵庫県三田市では保険の運用で得られた走行データを市道の修繕などに役立てる実証実験が進む(写真=松田 弘)
兵庫県三田市では保険の運用で得られた走行データを市道の修繕などに役立てる実証実験が進む(写真=松田 弘)

 「これまでは後手後手に回っていたが、今は明らかに修繕が必要な箇所を先回りして拾えている」。こう話すのは兵庫県三田市の道路河川課建設係の笹崎剛係長だ。

 大阪・神戸のベッドタウンである三田市。道路河川課の職員4人は日々、2台のパトロール車で市道を巡回し、目視で事故を誘発する可能性がある陥没やひび割れが発生している箇所を特定。別の職員3人がその箇所を修繕して回る。ただ、市道の総延長は700kmにも及ぶ。日々、くまなく確認できるわけではない。実際には市民からの指摘を受けて修繕に動くケースが多いという。

 そんな中、三田市は2022年7月から、あいおいニッセイ同和損害保険が開発した「路面状況把握システム」を修繕に生かす実証実験を始めた。

 あいおいは自動車保険の契約車両がいつ、どこを走行しているかといったビッグデータを有している。その中には車がどの程度、上下前後左右に振動したか、といった情報も含まれている。ここから道路の陥没などがどこで発生しているのかを類推できる。これを踏まえ、パトロールや市民からの指摘がなくとも修繕が必要な箇所を特定して対応する体制を実現しようとしているわけだ。

 三田市は5年に1回、主要道路で実施する、レーザー技術などを使い、道路の凹凸やひび割れなどの状況を詳細に把握する「路面性状調査」の一部も、あいおいのシステムに置き換えられる可能性があると見ている。笹崎係長は「むしろ走行データを使えば路面の凹凸などの状況の変化を時系列で把握できる」と話す。路面性状調査よりも有用な分析結果を得られる可能性もある。

 あいおいはなぜ、道路の状況を把握できるだけの走行データを保有しているのか。それは自動車保険事業において「テレマティクス保険」に注力しているからだ。

トヨタとの関係がプラスに

 テレマ保険とは、走行データからドライバーの運転特性を分析し、保険料に反映させる自動車保険を指す。国内の同市場で一番の存在感を示すのがあいおいだ。同社のテレマ保険の契約台数は170万台超で、トップシェアとみられる。なぜ、あいおいは優位性を獲得できたのか。要因は主に3つある。

 一つは歴史的にトヨタ自動車との関係が深い会社である点だ。04年、あいおいはトヨタの車載情報サービス「G-BOOK」を活用し、実走行距離を取得してそれに応じた保険料を請求する自動車保険「PAYD」を発売した。今で言う「コネクテッドカー」の強みを生かした商品設計だ。

 PAYDの契約件数は伸び悩んだ。当時は通信規格「3G」の時代。通信環境が整っておらず、車載情報サービス自体の普及が進まなかったためだ。ただ、あいおいはトヨタとの関係性があったからこそ、いち早くコネクテッドカー向けの保険開発を進め、経験値を蓄えられた。