使用済みペットボトルから生産する東レの繊維「&+(アンドプラス)」を採用するアパレル・小売りが増えている。東レはBtoB(企業間取引)が主体だが、衣料品を購入する消費者の共感を呼ぶマーケティングをテコ入れ。環境への配慮だけでなく、高機能素材のブランド価値も高める一石二鳥で新境地を開いている。

「&+」のマーケティングでは東レのZ世代社員が力を発揮している(写真=山本 尚侍)
「&+」のマーケティングでは東レのZ世代社員が力を発揮している(写真=山本 尚侍)

 樹脂製品のリサイクルを手掛ける協栄産業(栃木県小山市)の本社工場。まるで手延べそうめんを作るかのように、乳白色のひも状の樹脂が40本ほど連なって押し出される。その先の機械では、寸分の狂いもなく縦と横がそれぞれ3mm、厚さ2mmの直方体のペレットにカットされる。ペレットがぎっしり詰まった袋が向かう先は東レの愛媛工場(愛媛県松前町)や石川工場(石川県能美市)、タイ工場だ。ペレットはそこで高機能ポリエステル繊維に生まれ変わる。

環境価値だけでなく、機能性もうたい消費者に訴求しようとする。東レの繊維工場
環境価値だけでなく、機能性もうたい消費者に訴求しようとする。東レの繊維工場

 手掛ける繊維は複数の品目にわたるが、看板商品は断面が扁平(へんぺい)で「ひつじ雲」のような形状をした「ペンタスα(アルファ)」。扁平なので繊維の表面積が大きく、吸水速乾性を備えるのが特徴だ。他にも多くの空気をため込める中空の「エアレット」なども量産し、「&+」ブランドでアパレルメーカーや小売り大手に売り込んでいる。

吸水速乾が特徴の高機能繊維「ペンタスα」の断面
吸水速乾が特徴の高機能繊維「ペンタスα」の断面

 東レが原料に使うこのペレット、もとは使用済みペットボトルだ。協栄産業によると、原油からポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を精製するのに比べ、ペットボトルからなら製造過程で排出する二酸化炭素(CO2)を約63%(PET樹脂1㎏当たり約0.994㎏)減らせるという。

 東レはこの&+を衣料品の最終消費者にも訴求するため、これまでとは違うマーケティングを前面に押し出している。どういった創意工夫をしているのだろうか。

 繊維大手の東レをBtoBメーカーと分類することに異を唱える人はいないだろう。ファーストリテイリング傘下のカジュアル衣料品店「ユニクロ」で販売される「エアリズム」や「ヒートテック」など向けの繊維、自動車や電気製品向けの樹脂フィルムなど高機能品で地歩を築いてきた。

 だが、同社には革新的な技術によって社会のサステナビリティー(持続可能性)を実現するという経営目標がありながら、BtoBであるがゆえにそれを消費者に訴えるチャネルが限られるという課題を抱えていた。消費者と東レの間にはアパレル・小売りが存在し、消費者にとって東レは彼らの陰に隠れた黒子にとどまっていた。

ライフタイムカスタマーに触手

 「東レが社会的価値を持つ企業であることを(最終消費者に)認知してもらうため、ブランドを核にしたビジネスを本気で拡大していく」。長らく繊維部門を率いてきた大矢光雄副社長執行役員の号令のもと、2021年6月に特別チームが発足。深掘りしたブランディング作業が始まった。

 その議論で東レが導き出した答えは、「環境に配慮する消費者の行動や共感を通して、消費者も一緒になってサステナブルな価値を育んでもらう」というブランド戦略だった。

 例えば&+の顧客の一社であるスーパー大手のイトーヨーカ堂。PB(プライベートブランド)商品の「ボディクーラー」は真夏でも快適に着続けられる肌着で、消費者の人気も高い。肌にフィットすることでべたつきにくく、伸縮性に優れた東レ独自の繊維が使われている。原料は使用済みペットボトルだ。そのペットボトルはすべて全国のイトーヨーカ堂の店舗から回収されている。