業績は右肩上がり、株価も6月に上場来高値を付けるなど存在感を高める中堅化学メーカー、デクセリアルズ。ソニーグループから独立し、電子機器向けの部材を中心とした、技術トレンドの先読み力を磨いてきた。その裏側には、最終顧客を取り込むための緻密なマーケティング戦略がある。

本社・栃木事業所(栃木県下野市)における樹脂材料の開発現場。国内外から顧客が訪れ、その場で製品性能を確かめる
本社・栃木事業所(栃木県下野市)における樹脂材料の開発現場。国内外から顧客が訪れ、その場で製品性能を確かめる

 大型テレビにノートパソコン、スマートフォン──。デクセリアルズは、これらのデバイスの薄型化や画面の高解像度化の立役者と言っても過言ではない。

 例えばスマホではICチップとディスプレーのガラス基板を接着させる異方性導電膜(ACF)、ディスプレーの反射性を抑える反射防止フィルム、パネルの薄型化や視認性を高める光学弾性樹脂(SVR)といった多くの同社製品が使われている。いずれも世界シェア首位。機器の小型化や微細化が進む中、「限られた表面積でも接着できる」「反射率を他社製の5分の1に抑えられる」といった性能の高さが評価されている。

 同社はソニー(現ソニーグループ)が全額出資し、回路向け製品や工業用接着剤を手掛ける会社として1962年に設立された「ソニーケミカル」が前身。東証2部上場やソニーの完全子会社化などを経て、2012年にデクセリアルズとして設立された。

 新家由久氏が社長に就任した19年以降、急成長が始まる。19年3月期から22年3月期にかけて連結営業利益は7倍の266億円に伸長。売上高営業利益率は同期間で6.1%から27.8%へと跳ね上がり、ニッチトップで知られる日産化学(24.5%、22年3月期)をもしのぐ。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻といった不測の事態をものともしていない。

 背景にあるのは新家社長が重視する「最終顧客」との関係づくりだ。素材・材料メーカーの場合、部材を直に卸すメーカーとの関係を築くのが一般的。スマホのディスプレーに使う部材ならば、普通はスマホメーカーと直接やりとりする機会は少ない。その分、最終顧客に食い込めれば、直接顧客との関係性も深めやすくなる。

 象徴的なのが自動車産業へのアプローチ。電子機器関連は得意としてきたが、車業界ではいわば新参者。「デクセリアルズって何の会社?」と聞かれる状況からのスタートで、社内からも車関連への参入に疑問の声が上がるほどだった。それでも、環境負荷の側面や少子高齢化に伴う移動弱者の問題、交通事故による経済損失など、車の電動化が間違いなく商機になるとの読み筋だった。

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