男女の賃金格差が社会課題となっている日本。アメックスは2020年10月に世界で賃金の平等を達成した。米国本社を中心に調査した対象者は世界で約6万3000人、日本でも約2000人の社員が対象となった。人材の獲得競争が激化する今日、「選ばれる企業」になるためにもアメックスの挑戦に学ぶべき点は多い。
「モチベーションアップはもちろん、会社がきちんと見てくれていると分かってうれしかった。家族もとても喜んでくれましたね」。アメリカン・エキスプレス(アメックス)の東京オフィスで働く佐藤佳奈さん(仮名)は、そう言って顔をほころばせた。
笑顔の理由は賃金の上昇だ。佐藤さんはアメックスが2020年に実施した格差是正の取り組みで、賃金が上がった一人だ。
全世界で達成した賃金の平等
佐藤さんは派遣社員として入社したが、後に正社員に昇格した。「アメックスは過去に経験した日系企業よりも自由な社風で、仕事や個々の存在が平等に扱われていると思う」と言う。事実、米ニューヨークのアメックス本社は17年から賃金や女性リーダー比率などに関する調査を開始。米本社が主導し、世界で性別や人種、民族などによる賃金格差の是正に取り組んできた。調査したのは世界で約6万3000人。多種多様な社員を抱えるグローバル企業だからこそ、平等を重んじる文化が経営の根幹にある。
20年10月には日本を含めたグローバル規模で格差是正の目標を達成。日本では全社員約2000人が対象となった。米本社が全権を持ち、トップダウンで改革を進め、性別や人種問わず賃金が底上げされた。一方で賃金が下がった社員はいないという。賃金の平等は達成から2年弱が経過した今も維持されている。

アメックス人事担当副社長の森田義博氏は「最初に取り組みの説明を受けたとき、会社の本気度に鳥肌が立った」と言う。なぜか。賃金格差を是正するには、会社は人件費の増加を許容する必要がある。米本社は、賃金格差是正も含めた平等や多様性の取り組みに、世界規模で10億ドル投資している。「改革に取り組む真剣さを感じた」と森田氏は話す。
アメックスでは毎年、会社への満足度などを問う社内調査をグローバルで実施している。設問には、「会社に対し、公平性・平等性を感じますか?」という内容がある。16年には「平等性を感じる」との回答が79%だったが、20年の格差是正後はポイントが上昇、21年に86%となった。賃金の平等は、社員がきちんと評価されていると感じる重要な指針の一つとなっている。
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