この記事は日経ビジネス電子版に『三木谷氏、父への思いが結実 楽天メディカルががん新治療法』(4月18日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月25日号に掲載するものです。
楽天メディカルの新しいタイプのがん治療が、日本の医療機関の間に徐々に浸透している。日本人研究者が考案した光免疫療法がそれで、同社は「アルミノックスプラットフォーム」と称している。日本以外の国では比較試験を実施中だが、対象疾患を広げる臨床試験などにも取り組んでいる。

楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏が、膵臓(すいぞう)がんを患った父を救いたいと探し回り、米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆氏の研究に目を付けた──。2020年9月に厚生労働省が条件付き早期承認制度の下で承認した光免疫療法薬「アキャルックス」(セツキシマブサロタロカンナトリウム、開発番号=ASP-1929)の開発物語はこう始まる。
光免疫療法は、がん細胞に結合する抗体と、光に反応する化合物、レーザー光とを組み合わせ、がん細胞を破壊する治療法だ。
日本人のアイデアを形に
NIHは12年夏、米アスピリアン・セラピューティクス(現楽天メディカル=米カリフォルニア州)という小さなスタートアップに小林氏の研究を実用化する許可を出した。だが、アスピリアンの資金調達は難航した。そこに現れたのが三木谷氏だった。
アスピリアンは15年に米国で、頭頸(けい)部がんを対象にした治験を開始。18年からは日本での治験を行い、それらのデータを基に20年3月に日本で承認申請した。その間、何度か資金調達を行い、楽天が22.6%(19年時点)を出資するグループ企業となった。
頭頸部がんを対象に、既存の標準治療法と比較する「第3相臨床試験」は現在も日本以外の国で実施中で、24年に終了する予定だ。だが楽天メディカルは日本法人を通じ、「先駆け審査指定制度」「条件付き早期承認制度」などの日本の制度を利用して、20年9月に「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」を対象に先行して承認を取得した。
治療に用いる専用のレーザー光照射装置についても医療機器としての承認を得て、21年初めまでに発売。「講習を受けた医師のみが使えるよう、必要な措置を講じる」などの承認条件を満たしながら提供先を増やし、全国約40の医療機関で実施できるようにしたところだ。
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