難関大学の受験生への通信教育で定評のある「Z会」にも襲いかかる少子化問題。増進会ホールディングスは受講対象者の拡大と、買収による事業の多角化で再成長の道を模索してきた。手持ちのカードがそろった今、子会社の自主・自立路線からの転換でシナジーの創出に挑む。

顧客満足度調査で高評価を受ける(左上)。Z会の高校生向け通信教育のテキスト(右上)。JR三島駅前のZ会グループの本社(左下)。朱筆での添削が伝統となっている(右下)(写真=4点:栗原 克己)
顧客満足度調査で高評価を受ける(左上)。Z会の高校生向け通信教育のテキスト(右上)。JR三島駅前のZ会グループの本社(左下)。朱筆での添削が伝統となっている(右下)(写真=4点:栗原 克己)

 「朱色の文字でびっしりと書かれた添削答案が戻ってくるたびにしっかり読み込んでいました。それを繰り返してきたことが力になりました」。増進会ホールディングス(HD、静岡県三島市)傘下のZ会(同市)が手掛ける通信教育で学び、東京大学に進学した山田慎一さん(仮名)は自身の受験勉強をこう振り返る。

東大合格者の4割が会員

 難関大学を突破する受験生が活用することで知られるZ会。同社によれば、2021年度入試で東京大学に合格した会員は1316人。合格者の44%がZ会の通信教育で学んだことがある計算だ。京都大学には979人、早稲田大学には2495人、慶応義塾大学には1916人の会員が合格したほか、医学部医学科の合格者も1799人いる。oricon ME(東京・港)の22年「オリコン顧客満足度ランキング」の高校生向け通信教育の部門では6年連続総合1位となった。親から子、さらに孫へと2代、3代の受講者も少なくない。

 そのZ会グループを率いる藤井孝昭・増進会HD社長は「大きくギアチェンジする新しい段階に入った」と力を込める。利用者数の拡大と業態の多様化を進めた今、業態間の相乗効果を発揮するための取り組みに力点が移りつつあるのだ。

本社ロビーにある中伊豆時代の旧本社の模型(写真=栗原 克己)
本社ロビーにある中伊豆時代の旧本社の模型(写真=栗原 克己)

 Z会グループのルーツは藤井氏の祖父、藤井豊氏が1931年に東京・新宿で始めた通信添削「実力増進会」。戦災の影響で事業を一時中断したが、疎開先の静岡・中伊豆で再開。そのまま東京に戻ることなく伊豆を拠点に事業を拡大していった。

 創業家3代目の藤井孝昭氏は2011年入社。創業家以外の社長が2人続いていたが、藤井氏が13年に持ち株会社の増進会出版社(現・増進会HD)、14年に事業会社のZ会の社長に就任し、経営が再び創業家に戻った。現在のZ会グループは祖業である通信教育などを手掛けるZ会と、教室事業などの企業を傘下に収める中間持ち株会社のZ会HDを、持ち株会社の増進会HDが統括する体制になっている。

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 Z会の通信教育は、紙と郵便を使う従来の形とタブレットを活用したデジタル形式がある。どちらも問題構成は記述中心。「本物の学力を身に付けるには自分の頭で考えて、その考えを自分の言葉で表現するプロセスが大切という創業以来の考えに基づいている」と藤井社長は説明する。生徒が答案を提出すると、Z会は専門の担当者が採点するとともに、考え方のポイントや答案の問題点などを朱筆で書き加えて返送する。生徒は添削のコメントを読みながら学力を高める仕組みだ。

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