国策会社として誕生したJSRが祖業のエラストマー(合成ゴム)事業に別れを告げた。半導体材料とライフサイエンスの2本柱による成長シナリオの実現に強い自信を見せる。先端素材の事業で培った「技術を核にしたサービス力」を新事業での勝ちパターンにする。

 「十分に達成可能とみている」(宮崎秀樹取締役常務執行役員)。「目標達成は射程圏内にある」(ライフサイエンス事業担当のティム・ローリー執行役員)

JSRのライフサイエンス事業などの主な出来事
JSRのライフサイエンス事業などの主な出来事
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 素材メーカーのJSRが、医薬品の開発や製造を手掛ける「ライフサイエンス」事業の成長シナリオの実現に自信を見せ始めた。2025年3月期までの中期経営計画を示したのは21年3月のこと。ライフサイエンス事業について、4年間で「売上収益を約2倍の1000億円に」「コア営業利益率を約6%から20%に」という意欲的な目標を打ち出した。

 それからわずか1年弱の今、JSR経営陣は3年後の目標達成を早くも確実視するようになっている。実際、22年3月期の同事業は売上収益の見通しが前期比30%増の720億円。「年率20%」との成長目標を上回る。コア営業利益の見通しも同71%増の60億円。川橋信夫社長兼COO(最高執行責任者)は「ライフサイエンス事業にはここ数年、全社で最も多くの投資をしてきた。いよいよ大幅な拡大期を迎えている」と話す。

外国人CEO誕生、祖業売却

<span class="fontBold">エラストマー事業で製造する合成ゴム</span>
エラストマー事業で製造する合成ゴム

 JSRは1957年にタイヤの原料となる合成ゴムの国産化を目指して設立された国策会社だ。旧社名は日本合成ゴム。発足当初は大蔵大臣が株式の40%を所有しており、最大ユーザーであるブリヂストンの創業者、石橋正二郎氏が初代社長を務めた。

 そのJSRは大きな変化のさなかにある。2019年には10年にわたり社長を務めた小柴満信氏が退任して会長に就任(現在は名誉会長)。代わりにトップに就いたのが、ライフサイエンス事業を率いていたエリック・ジョンソン氏だった。新設のCEO(最高経営責任者)に就任した。

 ジョンソンCEOの下で中期経営計画を策定したJSRは、祖業のエラストマー(合成ゴム)事業の構造改革が必要と判断。人員削減を含む構造改革費用を約770億円計上し、21年5月にはENEOSへの売却を決めた。エラストマー事業を手放して注力するのが、半導体材料を主力とするデジタルソリューション事業と、ライフサイエンス事業だ。