再生可能エネルギーの導入だけが脱炭素への道ではない──。欧米とは異なる日本のエネルギー戦略を先兵となってけん引する。関心を寄せるアジアの国も増えてきた。「地に足の着いた脱炭素」の推進を目指す。

2021年11月2日、英グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)。壇上に立った岸田文雄首相は演説でこう宣言した。「アジアでは既存の火力発電を脱炭素化することも必要だ。日本は化石火力をアンモニア、水素などに転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開する」
石炭火力発電所や液化天然ガス(LNG)火力発電所には逆風が吹く。そのなかで火力発電所のアンモニア、水素への燃料転換が初めて、国家首脳により国際会議の場で提案された瞬間だった。
資源エネルギー庁の西田光宏戦略企画室長は、岸田首相の宣言以降、「『そんな方法があるのか』とアジア諸国から問い合わせが来ている」と話す。停廃止しか選択肢がなかった石炭火力に、日本は世界で初めて別の選択肢を提示した。欧州は岸田首相の演説を批判的に捉えたが、アジアの国々は関心を示し始めた。
火力の燃料転換は、20年10月、国内の発電電力量の3割を担う日本最大の発電会社、JERAが日本政府の脱炭素宣言に先駆けて発表した50年までの戦略「ゼロエミッション2050」に盛り込んだものだ。JERAは11年の福島第1原子力発電所の事故をきっかけに15年、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資して設立した会社だ。国内27カ所の火力発電の事業と燃料、海外事業を継承している。
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