人口減による国内販売の減少に悩む日本企業にとって、海外企業のM&Aは身近なものになった。買収先のガバナンスを整えて、うまく統合を進めれば、売上高は純増するだろう。だが、それで十分なのだろうか。アサヒGHDが買収で狙うのはシェアだけではない。世界のビール文化を幅広く学び、グループに還流しようとしている。

<span class="fontBold">スーパードライを現地生産するペローニのローマ工場。統括醸造責任者のシュルツ氏(左写真の右)たちは日本からの出張者が途絶える中、DXを導入し、リモートで味を作り込んだ</span>
スーパードライを現地生産するペローニのローマ工場。統括醸造責任者のシュルツ氏(左写真の右)たちは日本からの出張者が途絶える中、DXを導入し、リモートで味を作り込んだ

 新型コロナウイルスにより、世界が国境を閉ざして身を縮めていた2020年6月。多くの感染者を出したイタリアで、アサヒグループホールディングス(GHD)傘下のビラ・ペローニが「アサヒスーパードライ」の瓶・缶容器商品の生産を始めた。業務用の樽と瓶容器商品のラインを18年にイタリア北部の工場で稼働済み。ローマ工場で缶商品のラインを稼働したことにより、欧州で販売するスーパードライ全量が現地生産に切り替わった。

優れものはARか信頼か

 20年6月はコロナ前からの計画通りだった。製造の技術支援を行うため、日本の醸造技術者が19年秋からローマ工場にたびたび赴き、現地スタッフと膝詰めでライン整備を進めてきた。

 取り組んでいたのは醸造の各工程の微調整や微生物検査に関する確認など、味と品質を定めるビールの製造部門にとって大切な作業。ところが20年2月、イタリアで最初の新型コロナ感染者が確認された。その後間もなく国全体がロックダウン(都市封鎖)に陥り、日本から現地に通えなくなる。生産準備もいったんストップした。

 ここから4カ月、再開した作業は滞りなく進んだ。イタリアに出張できないため、双方向でコミュニケーションが取れる「ARグラス(AR技術を活用したヘッドセット型の通信機器)」を採用。ARグラスの動画通話を介して日伊の技術者が醸造プラント内の視点を共有し、現場の作業を改善していった。

<span class="fontBold">ローマ工場で導入した双方向でコミュニケーションが取れる「ARグラス」。動画通話を介して日本とイタリアの技術者が視点を共有した</span>
ローマ工場で導入した双方向でコミュニケーションが取れる「ARグラス」。動画通話を介して日本とイタリアの技術者が視点を共有した

 テレワークでビールの味を伝えるという挑戦は当初、アサヒGHD内で評判がよくなかった。五感をフル活用する職人的な醸造技術の伝承は難しいと受け止められたためだ。

 だが、毎日のオンライン会議で画像や動画を交換しながら醸造工程を練り上げていく作業は順調に進み、日本で醸造するスーパードライと同じ味やキレを再現できたのだという。うまくいった要因について、ペローニの統括醸造責任者であるラファエレ・シュルツ氏とアサヒGHDの醸造技術者の久保田順氏は口をそろえる。「チームの間で育成されていた信頼関係が生きた」

 「ARは使える」と見込んだアサヒGHDの醸造部門は、ペローニとの間で蓄積した情報共有の手法を日本の製造現場にも持ち込んだ。現在、アサヒビール四国工場やアサヒ飲料群馬工場、アサヒグループ食品岡山工場などにARグラスを導入し、遠隔で製造ラインの現場確認や技術指導を実現する検証を続けている。将来は委託先工場での現地立ち合い業務や監査などへの活用が可能になると見込んでいる。

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