この記事は日経ビジネス電子版に『JR西の改革(1)みどりの窓口7割削減 代替策の要もやっぱり人』など4回(5月24日~5月27日)にわたって配信した記事を再編集し、雑誌『日経ビジネス』5月31日号に掲載するものです。

JR西日本は新型コロナウイルス禍の影響で、2021年3月期に過去最大の最終赤字となった。社内の衝撃は大きく、利用を増やすための大胆な割引、コスト削減に向けた窓口閉鎖と事業を次々見直した。いつもと変わりなく物事を進める「安定第一」の保守的な企業が、どのように変化を起こそうとしたのか。

<span class="fontBold">鉄道事業は固定費の割合が大きく、需要の減少は採算悪化に直結する</span>(写真=PIXTA)
鉄道事業は固定費の割合が大きく、需要の減少は採算悪化に直結する(写真=PIXTA)
前期は過去最大の最終赤字に転落
●JR西日本の連結業績
<span class="fontSizeL">前期は過去最大の最終赤字に転落</span><br /><span class="fontSizeS">●JR西日本の連結業績</span>
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 「企業としての存立を懸けた重大局面にある」。JR西日本の長谷川一明社長は苦しい経営の現状をこう話す。2021年3月期は連結最終損益が2332億円の赤字に転落した。1987年の民営化以来、最大の赤字だ。

 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、同社は2021年7月以降に利用が回復していくとみているが、安心できるわけではない。22年3月期の連結経常利益は50億円のマイナスと予想している。不動産を売却してようやく30億円の最終黒字を出す計画だ。

トライ・アンド・エラーでいい

 20年、コロナ禍が広がるにつれてJR西の焦りは急速に強まっていった。わずかでも収入を確保し、コストを削る策を考えなければならないが、鉄道は他の産業ほど柔軟に事業構造を変えられない。

 生活に欠かせないインフラであるという理由だけではない。鉄道ビジネスは費用に占める固定費の割合が高い。線路や車両といったインフラも、駅員や運転士、保守要員といった人材も自前で持つためで、同社の場合「乗客が9割近くまで戻らないと利益が出ない」と長谷川社長は説明する。

 そして、JR西は他社以上に、安全対策に経営資源を投じる必要がある。05年の福知山線脱線事故で107人が死亡、563人が負傷した。21年4月25日の追悼慰霊式は、コロナ禍の影響で2年連続中止となったが、長谷川社長はこう話す。「事故を起こした企業として、厳しい経営環境でも安全投資はしっかりやる」。だからこそ、他にできることはすべてやらなければならない。

 20年1月末、新型コロナウイルスの対策本部を立ち上げ、長谷川社長が本部長に就いた。最大で9割も需要が消えるという未曽有の事態をどう乗り切るか、グループ全体の司令塔となって決めていく場となった。

 何を進める上でも問題となったのは、鉄道会社としての保守的な社風だ。これまでは、ダイヤと寸分たがわぬ運行に代表されるように、企業として「いつもと変わらないこと」が重視されてきた。安全への意識改革には取り組んできたが、急減する需要に合わせてあらゆる取り組みを見直す、という遺伝子は持っていない。鉄道は許認可事業であることも影響している。

 そのことは長谷川社長自身が理解していた。「公共交通として安定性が求められてきた。これは変化への対応に乏しい、多様性に欠けることと裏腹だった」と話す。

 長谷川社長は3月ごろ、社内に強いメッセージを発した。「この危機を前向きに捉え、テストマーケティングの場にする。スピードを重視し、トライ・アンド・エラーで進めればいい」

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