新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けた産業の一つが複合機業界だ。世界のオフィスから人がいなくなり、印刷物を出力する回数が激減。数年先の未来が一気にやってきた。業界をあげた配送共同化や機器販売以外のサービスの強化。転換点に立つ複合機業界を追った。

事務機器の業界団体は複合機の共同配送の実証実験に向けた準備を進める

 「東北のこの地域だったら効果がはっきり出るかもしれません」

 2021年3月、東京都港区にあるオフィスで、複数の複合機メーカーの社員たちが地図を指さしながら真剣に話し合っていた。ここは事務機器の業界団体であるビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)。濃淡のある赤色で塗り分けられている地図が表すのは複合機の配送先である顧客の密度だ。地方などの色が薄いところは顧客が少なく、配送効率が悪いことを意味する。複合機を共同配送する実証実験の対象地域を検討していたのだ。

「空気を運んでいた」

 共同配送に参加する方針を決めたのはリコーやキヤノン、コニカミノルタ、富士フイルムホールディングスなど約15社。全国の各地域に共同の配送拠点を設置し、複数のメーカーの複合機を共通のトラックを使って顧客企業のオフィスに届ける構想だ。

 これまで複合機メーカーは各社が系列企業や外注先などを使いながら個別に配送網を整備してきた。1台の重量が100kg近くに上る複合機の積載は人の手では困難なため、配送には昇降台付きのトラックを使う。ただし、昇降台を持つトラックは複合機を5~6台も載せられる大きさになってしまう。需要が少ない地域では複合機を1台だけ載せて運ぶことも多く、「空気を運んでいるようなもの」(複合機メーカーの社員)だった。

 JBMIAは、配送の効率が悪い地域を選んで21年にも実証実験を始める計画という。数カ月の実験で効果を検証した後、22年度には全国に広げて本格的な共同配送に乗り出す考えだ。共同配送によって、地方ならトラック台数を3分の1程度まで減らせると見込む。

 共同配送の構想が持ち上がったのは約3年前。呼びかけたのはリコーの山下良則社長だった。

 「斜陽産業だなんて言われて悔しいと思いませんか」。18年5月、JBMIAの会長に就いた山下氏は、会員企業の幹部に訴えた。「ペーパーレス化でどんどん縮小していく業界」。そう見られていることへの危機感から、業界として攻める分野と協力して効率化する分野のメリハリをつけようと呼びかけたのだ。「1~2日早く届くことがその会社の複合機を選ぶ理由にはならない。だったら一緒に配送した方がいいと考えた」と山下氏は当時を振り返る。

 ところが、すぐには具体的な動きにつながらなかった。1990年代のパソコンの普及に、2000年代以降のスマホやタブレットの普及。「『ついにプリントが減る』とこれまで何度も言われてきたが、いずれも蓋を開けると劇的な減少はなかった」(IDCジャパンの石田英次グループマネジャー)。市場縮小に対する危機感はまちまちだった。

 国内勢が7~8割のシェアを持つ複合機は、機器の販売後に稼ぐ「リカーリング」モデルの優等生だった。複合機をオフィスに置いてもらい、使い勝手を高めてたくさん印刷するよう促すことでトナーインクや用紙の販売で稼ぐビジネスモデルが機能してきた。

 JBMIAの現会長である池田隆之・東芝テック相談役は「かつては他社の製品と一緒に運ぶことに抵抗を持つ企業が多かった」と振り返る。それでも十分な利益が確保できたからだ。それが一変し、「今では反対意見はない」(池田氏)ほどになった。

 複合機メーカー各社の背中を押したのは、新型コロナウイルスだ。

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