騒動は繰り返さない

 難関校の合格者が多い塾には翌年も優秀な生徒が集まる。2000年代に入ると当たり前のようだが難しい好循環が加速していった。教室での教え方とクラス替えという温かさと厳しさを両立させていることが保護者の心を捉えた。

3年生以下の比率が増加
●SAPIX小学部の学年別比率
<span class="fontSizeM">3年生以下の比率が増加</span><br>●SAPIX小学部の学年別比率
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 少子化が今後も進む中、親からの要望もあり力を入れているのが通塾生の低年齢化。小学1〜3年生の入塾希望者が増え、今年4月の1年生のクラスは半分以上の校舎で定員に達して入塾募集を打ち切った。何年生からでも入塾テストのクリアが入る条件で、学年が上がるほどハードルも高い。早い段階でSAPIXの在籍を確保したい保護者の意向と、優秀な生徒を安定して獲得したいSAPIXの意向が一致している。

 塾の歴史は分裂の歴史と言える。付加価値が講師に集中しやすく、各地で有力講師が別の塾を立ち上げるケースが繰り返されてきた。SAPIXもTAPの内部対立で主要教科の講師たちが独立した経緯があり、こうしたリスクがあることを現在の経営陣も理解している。

 このため現場の運営は室長に任せる一方、講師の配属は本部が決める。室長や講師は定期的に異動し、「自分の城」や「子飼いの部下」をつくらせないことに力を注いでいる。大きな裁量で自由に教室運営ができることは、優秀な人材を集めるだけでなく、分裂を防ぐことにもつながると考えている。

コロナ下でも市場縮小は限定的
●学習塾・予備校の市場規模
<span class="fontSizeM">コロナ下でも市場縮小は限定的</span><br>●学習塾・予備校の市場規模
出所:矢野経済研究所「教育産業白書 2020 年版」
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 矢野経済研究所の調査によると、学習塾・予備校の市場規模は1兆円弱で推移し、大きく動いていない。子供の数は減るが、1人当たりの教育費は増加傾向で、経営環境は今のところ悪くないという。

 むしろ追われる立場であることのほうがSAPIXには厳しい。塾の中には上位層の塾代を無料にする動きがあり、SAPIXの空き時間の教室を掲げるケースも出てきた。かつての自らと重なる挑戦者の姿。講師の裁量といった教育の基本を大切にして成長してきたが、今後は他塾の動向を探りながら必要な手を打たなければならなくなる。

資本関係はなく、代ゼミ創業家が一体運営
●SAPIX YOZEMI GROUPの組織図
<span class="fontSizeM">資本関係はなく、代ゼミ創業家が一体運営</span><br>●SAPIX YOZEMI GROUPの組織図
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 SAPIX小学部は10年、創業メンバーが高齢などを理由に経営を離れるにあたり、代々木ゼミナール系の日本入試センターが株式を取得し、「SAPIX YOZEMI GROUP」の一員になった。

 学校法人である代ゼミとそのほかの塾を展開する日本入試センターに資本関係はない。代ゼミの創業ファミリーである高宮家が両者のトップを兼ね、グループとして運営している。

 ただ、グループ化して11年が経過するにもかかわらず、シナジーが見えない。浪人生がピークの30万人ほどから大幅に減り、代ゼミは地方の校舎20校を閉鎖する構造改革を14年に打ち出す一方、再生の切り札としてグループ化していたSAPIXに期待していた。

浪人しても頼ってほしい

 代ゼミの映像授業のノウハウをコロナ下でSAPIXが生かすといった取り組みはある。しかしSAPIXから難関中に合格した生徒が、大学受験塾のY-SAPIXに通ったり、浪人した際に代ゼミを選んだりする人数は伸び悩んでいる。Y-SAPIXと代ゼミの連携も限定的だ。河合塾の教務本部長などを務めた高等教育総合研究所の亀井信明代表は「基本路線は間違っていないが、各事業がつながっていない。どこかで戦略を調整する必要がある」と指摘する。

 学習塾・予備校はこのところ一貫して再編が続いている。駿台予備学校の駿河台学園は関西の進学塾、浜学園と16年に共同で新会社を設立し、首都圏に続き関西でも小中学生向けの塾を展開する。Z会は15年に栄光ゼミナールを買収した。小学生から高校生までを一貫して手掛ける総合型が広がる中で、SAPIX YOZEMIは埋もれかねない。中学受験で固めた絶対的なブランドを生かした次の一手が欠かせなくなっている。