「数字と直感のバランス」が大事

<span class="fontBold">CFOに就任したのはファーストリテイリングで同じ職を務めた吉高信氏。財務体質などの改善に取り組んでいる</span>(写真=森田 直希)
CFOに就任したのはファーストリテイリングで同じ職を務めた吉高信氏。財務体質などの改善に取り組んでいる(写真=森田 直希)

 吉高氏はMTGについて「会社に一体感があり、いい意味でベンチャーの気風が残っている」と話す。今後重要になるのは、数字と向き合いながら、松下社長が持つアイデア力、開発力を生かすバランスだとみている。「数字によってそうした直感が磨かれるだろう」

 大田氏も、成長の原動力は今後も松下社長だと考えている。「ハングリー精神が並外れている」という。

 長崎県の五島列島で育った松下社長は、小学5年生のときに自分が養子であることを知る。「本当の子供のように育ててくれた家族に恩返しをしたい」。将来、会社を興し、成功すると心に決めた。高校卒業後、日本電装(現デンソー)などで働き、中古車販売会社を立ち上げた後、MTG創業に至った。

 成功への思いは強いが、松下社長は「今はまだ再建の途上」と自らを戒める。20年10~12月期の最終損益は13億円の黒字だが、19年9月期に計上した多額の在庫評価損の反動という側面がまだ残っている。

 MTGが転落と復活から得たものは、経営の基本動作で状況は変わるという事実だ。伸びることしか知らなかった同社が、初めて地に足の着いた会社になったと言える。再び存在感を高めたいという松下社長。ここまでの経験を全社員一丸となって血肉にできるかどうかにかかっている。

INTERVIEW

松下剛社長に聞く
時にブレーキ、焦らず成長させたい

(写真=森田 直希)
(写真=森田 直希)

 不適切会計などの問題が噴出したことは情けない限りです。毎年100人単位で社員が増え、黒字は当たり前。予算実績管理なども甘く、コストの精査などを軽んじていた。管理体制の整備も後回しになっていました。

 過度な売り上げ目標の必達主義が問題の要因の一つと指摘する声もあります。私は、大きい目標を掲げること自体が悪いとは思っていません。ただ、ルールを守るのは当然です。中国を中心とした海外市場は広大で、成長の余地は大きいとみていた中で、EC(電子商取引)の規制強化などを端緒とした市場の変化を感じ取れなかった。その責任は私にあります。

 改めて海外市場の難しさを感じていますが、MTGの成長には欠かせません。まずは国内で高収益な体制を作り直し、海外に挑みます。その点、CFO(最高財務責任者)として、ファーストリテイリングなどでのグローバル経験が豊富な吉高信氏を招へいできたことは大きいと考えています。

 盛和塾で経営のイロハを学んだ身からすると、稲盛和夫氏のそばに30年近くいる大田嘉仁氏に、会長を引き受けていただいたのもありがたいと思っています。盛和塾で学んだのは経常利益の重要性や強い会社をつくるには何が必要か、といったことでしたが、実践できていなかったのだろうと思います。大田会長を通してもう一度、学び直している最中です。

 危機を受け、社員は必死に頑張ってくれましたし、大田会長や吉高CFOのような人材に来てもらえた。私はワンマン経営者のように見られることもあります。ワンマン的な側面は、成長していく上で時には必要だと思いますが、ワンマンだけでは限界があるのもその通りです。

 我々にとって危機は2度目です。1回目は足の岩盤浴を楽しめる「足の助」という商品で大規模なリコールに追い込まれた2008年。これをきっかけに様々な分野の大企業で開発責任者を務めた人材を集めた「顧問会」をつくり、開発力の強化に努めました。だから09年に「リファ」という大ヒット商品を発売できた。リコールがなければ、今の成長はなかったはずです。

 今回の危機も、稲盛氏が重視するフィロソフィーをもう一度見つめ直す機会になりました。改めて、部門別採算をベースとした全員参加型のグループ経営を進めていきます。

 一連の問題への一番の責任の取り方は数字で返していくことです。もっとも、ずっと右肩上がりの成長なんてないと改めて実感しています。あらゆる環境の変化によって、難局に直面することは今後もあるでしょう。時にブレーキをかけながら、焦らずに成長を実現していきたいと考えています。(談)

日経ビジネス2021年4月26日号 54~58ページより目次

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