1年で黒字に戻る絵を描いたのは、稲盛和夫氏の秘書を務め、30年近く側近だった大田嘉仁氏。稲盛氏がJALを再建する際に、京セラから一緒に連れて行った人物だ。言わば稲盛イズムの継承者がMTGを立て直すわけだ。

<span class="fontBold">大幅な赤字の計上を機に、稲盛和夫氏の側近を長年務めた大田嘉仁氏のもとで構造改革に取り組んだ</span>
大幅な赤字の計上を機に、稲盛和夫氏の側近を長年務めた大田嘉仁氏のもとで構造改革に取り組んだ

 復活を目指す中で、社内の物の見方が大きく変わった点がある。数字を軽視せず、正しく見るようにすることだ。現実を直視し、次に取る行動の道しるべになる。

 当然のように思えるかもしれないが、MTGの転落を振り返ると、全ての会社がその意味をとらえられているとは言い切れない。

 上場翌月の18年8月、2本柱の売れ 行きを左右する出来事が起きた。中国 で、EC(電子商取引)事業者に登録と 納税を義務付ける新EC法が成立した のだ。MTGが日本や韓国で開いていた免税店などに大量に押し寄せていた中国人客は、引き潮のように姿を消した。個人で買ってネットで売り抜けることが難しくなったからだ。

 規制を機にリファの売り上げが減っていく。だが、店舗などから上がってくる数字と向き合い、最悪の見通しを立てるなどして経営を見直すことはできなかったようだ。同社の関係者は、当時の社内の雰囲気をこう語る。「会社としてデータをどうとらえ、どこへ進むかを決めることができていなかった。業績の見通しがすぐに変わってしまうなど、混乱している面があった」

 さらに、数字を巡って新たな問題が発生する。市場の信頼を失うことになった不適切会計だ。

 「多少のむちゃは目をつぶってください」。19年3月、中国子会社の幹部が本社役員にこう伝えた。問題になったのは、ある商社との取引だ。

 その商社との間では、MTGの中国子会社が売れ残りの買い戻しを保証する取り決めになっていた。実際に、商社が仕入れた商品のほとんどが在庫となってしまい、MTGが買い戻した。

 MTGは商社に商品を卸した時点で売り上げを計上していたが、監査法人が待ったをかけた。商社が小売業者に売った時点でMTGの売り上げとして認識すべきだと指摘。他にも中国子会社が、不透明な手法で取引し、監査法人に虚偽の説明をしていたことが明らかとなった。

 MTGは80億円を超す売り上げを取り消したうえ、19年9月期の連結決算で売上高395億円に対し85億円の最終赤字になる見込みと発表する。

 「売り上げの必達至上主義のようなものがあった」と井上祐介取締役は振り返る。数字を重視しているようでいて、実際は目標のための目標になっていた。状況を正しくとらえ、行動を変えるきっかけにもできていなかった。松下社長は「成長が10年間続き、自信過剰になっていた」と自省する。

会長への就任打診

 19年6月、松下社長はわらをもすがる思いで、大田氏に経営立て直しに取り組んでもらえないかと打診した。松下社長は、稲盛氏が経営哲学を教える「盛和塾」に00年から参加していた。そのつながりで、大田氏は18年からMTGの顧問となっていた。迷走を見かねた大田氏は、会長となって再建に取り組むことになる。19年12月には取締役会長となった。

 大田氏は、赤字経営と不祥事で暗いムードになっていた社員の士気を高めながら、「売り上げ最大化と経費最小化」など、稲盛氏が説いてきた経営の原理原則に従って再建することに努めた。

 「3年間かけて立て直します。それがギリギリです」

 「だめだ。1年で黒字転換させる」

 大田氏は経営陣にピシャリと言った。「1年でV字回復しないと、そんなに長い間社員は付いてこない」とつっぱねたのだ。

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