新規事業を成長につながる切り札と考える経営者は多いが、事業化にこぎ着ける事例はまれだ。アイデアを出す過程では目前の仕事に時間を奪われ、事業化を進めるにも割ける社内のリソースには限りがある。三井不動産は、自ら過保護と評する丁寧な仕組みを取り入れた。新規事業が動き出し、現場の意識も変わりつつある

<span class="fontBold">「MAG!C」の第1号案件として立ち上がった「GREENCOLLAR」。生食用ブドウを日本とニュージーランドで生産、出荷する</span>
「MAG!C」の第1号案件として立ち上がった「GREENCOLLAR」。生食用ブドウを日本とニュージーランドで生産、出荷する
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 3月5日、三井不動産が子会社を通じ、農場で自ら育てたブドウの販売を始めた。ブランド名は「極旬(ごくしゅん)」。紅色で超大粒の「バイオレットキング」(1房5740円)と「巨峰」(1房3140円)の2種類で、いずれもニュージーランドで栽培した。夏には山梨県で育てたブドウに切り替え、季節商品を通年で販売する。

 不動産御三家の一角が生産から一貫して手掛ける果樹ビジネス。多くの人が首をかしげた事業は社内ベンチャー、GREENCOLLAR(東京・中央)が手掛けている。4月以降、中国やシンガポールで試験販売する予定。現地での需要を調査し、海外輸出も目指す。

第1号の果実をもぎ取る

 三井不が新規事業の創出に全力を傾けている。不動産の収益はコロナ下でも底堅く、商業施設やホテルが不振の中でも、2021年3月期は2%の増収となる見通し。営業利益率も10%を維持する。東京・日本橋で立て続けに仕掛けた都市開発も堅調だ。

多様な事業の連携で収益を伸ばしている
●三井不動産の連結業績
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 だが、菰田正信社長ら経営陣は会社の変化に一抹の不安を感じていた。三井不は三菱地所のように丸の内にタネ地を持つわけではない。過去には日本初の高層ビルである「霞が関ビルディング」や人工スキー場の「ザウス」といった、世間が驚くような斬新な不動産事業を生み出し、稼ぎ続けてきた。

 その強みを持続できるのか。売上高が2兆円に迫り、組織も一つひとつのプロジェクトも大きくなると、現場社員からアイデアが生まれにくくなる。大企業病とも言い換えられる兆候を何とかしようと、事業提案制度「MAG!C(マジック)」を18年に社内で公表した。