世界ランキングで1位になったスーパーコンピューター「富岳」の本格運用が3月に始まる。利用者が驚くのはその使いやすさ。孤高の存在だった先代の「京」から一変した。産業界から「近寄りがたい」といわれてきた国の研究所の意識改革が実を結んだ。

理化学研究所の計算科学研究センター(下)内にある、本格運用を目前に控えたスーパーコンピューター「富岳」(上)。テニスコート10面分以上の広さのフロアに、巨大なコンピューターの棚が432台も並ぶ(写真=理化学研究所)
(写真=理化学研究所)

 神戸空港からポートライナーで1駅、5分ほどで到着する「京コンピュータ前駅」。その近くにそびえる理化学研究所(以下、理研)の計算科学研究センターに設置された巨大なコンピューターシステムが本領を発揮する日が迫ってきた。「2021年度中」としていた当初の予定を前倒しして3月9日に本格運用を開始するスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」だ。

 テニスコート10面分以上の巨大なフロアに整然と並ぶのは、高さ2.2mのコンピューターの棚432台。システム全体に収めた最先端のCPU(中央演算処理装置)の数は16万個近くに上り、スパコンの性能ランキングの指標となる演算回数で1秒間に44.2京回という性能をたたき出す。20年6月の世界ランキングで日本製スパコンとして8年半ぶりに首位に立ち、11月のランキングでも首位を堅持。2位に入った米国のスパコン「サミット」に対して約3倍の性能差をつけた。

 20年4月に始めた試験運用では、新型コロナウイルスの感染対策として実施した飛沫の拡散状況のシミュレーションなどの具体的な成果も出始めた。21年度の一般利用には企業や研究機関の81プロジェクトが応募し、先代の「京(けい)」の最終年度の34件を大幅に上回る。準備期間を含めて約10年の長期プロジェクトで生まれた富岳は、まずは順調な滑り出しを見せた。

 京に対して約100倍にもおよぶとされる処理性能が耳目を集める富岳だが、試験運用中に利用した国内のある研究者が驚いたのは使い勝手だった。「こんなに使いやすいとは思わなかった」と興奮を隠さない。

 なぜ富岳は変わったのか。そこにあるのは理研の姿勢の変化だ。松岡聡・計算科学研究センター長は「とにかく使われることにこだわって開発を進めた」と振り返る。浮世離れした“象牙の塔”であってはならないとの意識改革が「使いやすいスパコン」という形になって表れた。

続きを読む 2/4 「近寄りがたい」という声も

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