予約だけで年間目標に肉薄

 取り回しがしやすく、通勤や買い物などの生活の足としてだけでなく、週末にキャンプ道具を積み込んでツーリングするアウトドアレジャーなど、「1台であらゆる用途に対応できる」(開発責任者の箕輪和也氏)。その狙い通り、近年、幅広い層に人気の「ソロキャンプ」需要を射抜いた。仕事や生活に余裕ができて一度手放した二輪に乗り直す「リターンライダー」や、年齢を重ねて小型の車種に乗り直すベテランライダーの需要も取り込んだ。

 税込み44万円とカブシリーズとしては高額ながら、20年3月の発表後、予約だけで国内年間販売目標の8000台に肉薄。国内受注ベースでは1万4000台を超え、納車まで数カ月待ちとなるヒットになった。タイ、インドネシア、米国、オーストラリアでも販売。予想を上回る好調を受けて、世界全体で年間2万台超の出荷を計画する。こうしたヒットの要因を、都内で二輪販売事業を手掛ける関係者は冒頭のように分析する。

 CT125のヒットの背景を探ると、「おとなしくなった」といわれるホンダが、往時のものづくりの熱量を取り戻すための挑戦が見えてきた。

 初代スーパーカブ「C100」の誕生は1958年。気軽に乗れて堅牢で保守がしやすく、ランニングコストも低い新しい小型二輪を目指し、創業者・本田宗一郎氏と盟友の藤澤武夫元副社長の肝煎りで産声を上げた。2017年にはシリーズの世界累計生産台数が1億台を突破。世界で最も売れている二輪ブランドで、ホンダを象徴する旗艦車種だ。

世界で最も売れている二輪ブランド
●カブシリーズの世界累計生産台数
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 CT125・ハンターカブは、熱狂的なファンを持つ1981年発売のCT110の復刻モデル。長い歴史を持つ製品が新しいユーザーを掘り起こせたのは、日本ではなくタイで開発した点が大きい。どういうことか。

 ホンダはニーズを把握しやすい消費地での開発をモットーとしてきた。東南アジア市場の拡大に合わせて研究開発拠点、ホンダR&Dサウスイーストアジア(HRS-T)を97年にタイに設立し、現地向けモデルの開発を担当してきた。数年前から、小型を中心に世界展開するモデルの開発拠点としての役割を強化。開発責任者の箕輪氏は2017年にHRS-Tに赴任し、その後、現地技術者たちとCT125の開発を進めてきた。生産もタイの現地工場で手掛けている。

 タイ、ベトナム、インドネシア合計の二輪の市場規模は日本の実に30倍ほど。特にタイでは近年、二輪車を生活の足ではなく、週末の「趣味の道具」として楽しむユーザーが増えている。「こうした新しい客層を見据え、単なる旧車の復刻版ではなく先進的な高付加価値モデルにすべきだと考えた」と、CT125でデザイン部門を統括したボンカーン・サウェスチパン氏は語る。

 例えばタイの開発陣は、前輪だけでなく後輪にも旧来のドラムブレーキではなく制動力の高いディスクブレーキを採用することにこだわった。コストアップにつながるが、先進的な装備が充実していることが、新規ユーザーを取り込む上で重要と判断した。

 さらに、ユーザー一人ひとりが用途や好みに合わせてカスタマイズしやすいようにもした。荷台やライトの周辺には、「市販の様々な追加装備を自由に取り付けられるように、本来なら隠すネジ穴を目立つ場所に多数設けた」(サウェスチパン氏)。タイでは日本以上にカスタムパーツ市場が成熟しており、自分仕様の1台を完成させることを楽しむ文化が根付いている。

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