新型コロナウイルスの感染拡大によりネットスーパーの需要が増えている。各社が顧客獲得にしのぎを削る中、イトーヨーカ堂は専用アプリを投入し、事業拡大に乗り出した。外部の力を借り、顧客視点のサービスを徹底。近年の低迷から反転攻勢の兆しが見え始めた。

<span class="fontBold">スタートアップの10Xとネットスーパー専用アプリを開発。6月に提供を開始した</span>(写真=吉成 大輔)
スタートアップの10Xとネットスーパー専用アプリを開発。6月に提供を開始した(写真=吉成 大輔)

 新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業が業績悪化に見舞われる中、堅調なのが食品を扱うスーパーだ。在宅勤務が広がり、外食をする機会が減ったため、自宅で食事をとる回数が増えていることが背景にある。食品スーパー業界3団体の調査では、政府が全国に緊急事態宣言を発令した2020年4月の全国のスーパーの売上高は前年同月比12.3%増の9824億円となった。

 店舗に行かずに買い物ができるネット通販も好調だ。その結果、生鮮食品などをネットで注文し、配送してもらうネットスーパーは需要が大きく伸びている。緊急事態宣言中は、ネットスーパーを手掛ける各社とも配送が追い付かない状態が続いた。

 流通各社は00年代前半からネットスーパーを提供してきたが、ネットでの買い物が当たり前になった他の商品と比べると、順調に伸びてきたとは言い難い。日本では野菜や魚を自分の目で見て買いたいというニーズが根強いことや、必要な時にすぐに届けてもらえるとは限らないことが影響し、EC(電子商取引)化率は3%程度にとどまっている。

ネット経由はまだ少ない
●商品売上高に占めるネットスーパーの割合
<span class="textColTeal fontSizeM">ネット経由はまだ少ない<br /><small>●商品売上高に占めるネットスーパーの割合</small></span>

 一方で、低いEC化率は、成長余地があるということでもある。矢野経済研究所の調査によると、ネットスーパーや生協を含めた食品通販の市場規模は19年度の3兆8100億円から24年度には4兆1800億円に伸びる見込み。ここに新型コロナによるニューノーマルという新たな要因が加わったことで、長らく伸び悩んでいたネットスーパーが一気に広がるのではとの期待が膨らんでいる。スーパー各社はこの機を逃すまいと、動き出している。

 日本のネットスーパーの草分け的存在で、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂もその1社だ。同社は01年、葛西店(東京・江戸川)でネットスーパー事業を始めた。他の流通大手に先行したメリットを生かし、サービスを提供する店舗を増やして着実に利用者数を伸ばした。15年2月期には、ネットスーパーの売上高が500億円規模にまで増えた。

<span class="fontBold">イトーヨーカ堂のネットスーパーは主に店舗で注文商品をピックアップする</span>
イトーヨーカ堂のネットスーパーは主に店舗で注文商品をピックアップする

時代に逆行し、売り上げ減

 ところが、世の中のデジタルシフトが進むのとは裏腹に、同社のネットスーパー事業は低迷する。イオンや西友といった競合がネットスーパーを強化。ECの巨人である米アマゾン・ドット・コムも生鮮食品の分野に乗り出し、競争が激しくなっている。加えて、不振店舗の閉鎖によって配送拠点が減ったため、ネットスーパーの売上高も減少している。20年2月期には、イトーヨーカ堂のネットスーパーの売上高は400億円を割り込んでしまった。

5年前をピークにネットの売り上げは漸減してきた
●イトーヨーカ堂のネットスーパー売上高の推移
<span class="textColTeal fontSizeM">5年前をピークにネットの売り上げは漸減してきた<br /><small>●イトーヨーカ堂のネットスーパー売上高の推移</small></span>

 こうした現状を打破すべく、同社は今年、新たな手を打った。6月にネットスーパー専用のスマートフォンアプリをリリースしたのだ。