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企業に求められるESG(環境・社会・企業統治)に、本音では懐疑的な経営者もいるのではないだろうか。投資家が環境対策を中心に必要だと主張するから、産業界はやむなくかじを切ってきた面がある。エーザイはESGに伴う公益活動が、企業価値を引き上げると位置付ける。30年に及ぶ一貫した方針が実を結んでいる。

「共同化」の一幕。中堅幹部社員が都内の高齢者支援施設で認知症の人たちと交流。右下はエーザイ本社(東京・文京)(写真=4点:エーザイ提供)

 8月7日、米食品医薬品局(FDA)はエーザイが米バイオジェンと世界で共同開発しているアルツハイマー病治療薬候補、アデュカヌマブの承認申請を受理したと発表した。両社の株価はその直後にそれぞれ一時15%、12%上昇。人類共通の敵であるアルツハイマー病克服への光明に、投資家から期待する声が上がった。

 エーザイが世界に先駆けて供給したアルツハイマー病治療薬、アリセプトは10年前に米国での特許が切れた。その後、症状を抑えるアリセプトと異なり、進行を遅らせるという、これまでにない作用が望めるアルツハイマー病薬の開発に取り組んできた。FDAが実際に承認するかどうかはまだ分からない。それでも開発に成功すれば年間売上高を1兆円と予想する声もある。

抗がん剤が育ち、パテントクリフを克服した
●エーザイの業績推移

 治験が不調だったと公表した昨年3月にエーザイの株価は急落。一転して「データを精査した結果、有効性が認められた」と開示した同10月には急騰した。アデュカヌマブがエーザイの未来を決めると市場はみているが、同社はその成否と関係なくアルツハイマー病と向き合い続けるという。華々しい治療薬開発の裏で進めるアルツハイマー病への取り組みは、ESGを体現するような、社会性の高いものだ。

日経ビジネス2020年11月2日号 50~54ページより目次