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市場の声を商品に反映していくマーケットインの考え方は製造業にとって欠かせなくなっている。だが、それをどこまで徹底できているだろうか。多くのメーカーでは“聞き逃し”が機会損失を招いている。買い手の不満を満足に変えるため、フジッコは消費者の意見を取り入れる仕組みを幾重にも張り巡らした。

総菜(右上)、昆布製品(中上)、豆製品(左上)で売り上げの8割を占める。ヨーグルト(右下)は1割まで育った。左下はデザートのフルーツセラピー。建物は神戸市の本社(写真=商品:スタジオキャスパー)

 「1パックの値段は100円以下。そうでないと売れない」「分量はこれまでの半分程度でいい」──。

 スーパーやコンビニで販売している総菜の大手メーカー、フジッコ(神戸市)の業績を、2016年にリニューアルした「おばんざい小鉢」シリーズが支えている。「切干大根」や「きんぴら」「うの花」といった和風総菜をカップ型のパックに詰めた13種類がある。だしや下ごしらえのこだわりに加え、釡炊きによる製法で手作りのような味と風合いを引き出したという。

さりげなく聞くのがコツ

 18年3月期以降、総菜事業の売り上げは前の期比5~8%増えており、けん引しているのがおばんざい小鉢だ。カップ型容器の商品は10年ほど前からあったが、味だけでは売れなかった。リニューアル後は多くが2パック1セットで税抜き価格は198円。そして1パック40~50gほどという食べきりの量。買い手の本音を探る社内の仕組みを時間をかけて整え、それをリニューアルに生かしたことが、おばんざい小鉢のヒットを生み出した。

今期の営業利益率は7%見通し
●フジッコの売上高と営業利益率の推移

 昆布、豆製品や総菜を手掛ける東証1部上場企業、フジッコ。20年3月期の連結売上高は661億円と食品メーカーの中では中堅だが、「ふじっ子煮」「おまめさん」などの軽快なテレビコマーシャルで知名度は高い。コンビニなどのPB(プライベートブランド)商品に対抗して人気商品を生み続け、11期連続の増収となっている。

創業60年で5つの主力事業をつくった
●2020年3月期の売上構成比(連結売上高は661億円)
(写真=スタジオキャスパー)

 何人ものフジッコ社員にヒットの秘訣を聞いてみると「消費者の声を反映し続けること」というオーソドックスな答えが返ってきた。フジッコには、買い手が何を考えているかを探る多重システムと呼べるような、一言では説明できないあの手この手の仕組みが整っているという。

 「あなたが一食だと思う量を盛り付けてください」。15年夏。ぱっとしなかったおばんざい小鉢のテコ入れを任された商品開発部おかずチームの瀬川幸秀課長らのチームは、100人の消費者を集めて意見聴取会を開いた。通常、スーパーに置いてある総菜は小さくても1パック80g程度。だが、盛り付けられた量はそれよりも少なかった。副菜としての総菜はそれほど量を求められていないことが分かり、100人が盛った平均値をおばんざい小鉢1パックの量に設定した。

 価格の設定では20年ほど前から置いているFD(フジッコデモンストレーター)と呼ぶスタッフが決定的な情報を持ち帰っている。FDはスーパーや大型店に出入りしフジッコ商品を扱う試食販売スタッフ。業界では外注が当たり前の試食販売にコストをかけて自前で手掛け、全国に14人のスタッフを配置している。ほぼ全員が10年選手だ。

 FDは新商品を薦める接客をしながら、さりげなく消費者の声を聞き取り、本社に報告する。FD歴16年のベテランスタッフは「店頭に立つと作り手と買い手の思いがずれていると感じることがしばしばある」と言う。

 そのFDがおばんざい小鉢で声を上げたのが価格だった。店頭での経験からワンパック100円以下なら試しに買ってみることを見抜き、本社に進言。開発担当者たちはその値段で販売できるよう、コスト削減を図った。

日経ビジネス2020年10月26日号 48~52ページより目次