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世界最先端の研究施設で使われる、物質の構造を観察する電子顕微鏡で世界トップのシェアを誇る。ノーベル賞級のトップ研究者のネットワークに入り込み、現場の細かなニーズを把握し提案できるのが強みだ。装置だけでなく設置工事やシェアリングなどサービス分野にも手を広げ、ニッチトップの地位を盤石にしている。

日本電子は電子顕微鏡でトップシェアだ(写真=陶山 勉)

 東京大学大学院工学系研究科や理学部が実験設備を構える浅野キャンパス(東京・文京)。機密性の高い研究が多く関係者以外の立ち入りを原則禁止している。この都心のキャンパス内にある施設の地下に鎮座していたのは、高さ3mを超える巨大な電子顕微鏡。通称、「MARS(原子分解能磁場フリー電子顕微鏡)」だ。

 防音室のような専用部屋の扉を閉じると、隣接した部屋のモニターで1ピコ(ピコは1兆分の1)メートル単位の物質の動きを観測できる。肉眼では全く見えない大きさだ。

88年前からの常識を覆す

東大の柴田直哉教授らと共同開発したMARSは画期的なレンズの仕組みを採用

 2019年に誕生したMARSは、1931年に世界で初めて電子顕微鏡が開発されて以来の常識を覆したともいわれる。東大大学院工学系研究科付属総合研究機構と共同で開発を手掛けたのが、物質の構造を観察する電子顕微鏡で世界シェアトップの日本電子だ。

 MARSが快挙とされる理由はその独特の観測方法にある。原子のような小さな粒子を観察する電子顕微鏡は、電子線を試料に当て、反射や透過する電子を検知し、コイルに電流を流し磁場を発生させた電子レンズで拡大する。光学顕微鏡よりもさらに小さいものを観察できるが、弱点がある。鉄鋼や電池の材料など、磁場の影響を受けやすい物質の観察が困難とされてきた。

 MARSでは2枚の電子レンズの配置を工夫し、試料のある場所の磁場をほぼゼロにできる機構を開発。これまで観察できなかった磁性材料の特徴が分かるようになるため、電気自動車(EV)に使われる永久磁石や磁気メモリーなどの材料開発への応用が期待できる。

 研究機構の機構長で東大大学院工学系研究科の柴田直哉教授は「最高の研究に挑戦するためにも、世界トップの日本電子の顕微鏡を使う必要がある」と話し、「長い信頼関係があったからこそできた」と話す。

 日本電子は東大と2005年から産学連携を開始。1980年代に顕微鏡市場は欧州メーカーが一時シェアを拡大したとはいえ、電子顕微鏡を「日本のお家芸」と言われるまでトップを維持してきたのも、日本電子が世界のトップ大学とがっちりと手を組むことで、自ら市場を開拓してきたからだ。

日経ビジネス2020年10月19日号 52~56ページより目次