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コロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的TOB(株式公開買い付け)が成立した。大戸屋HDの敗因は複数あるが、根本はそもそも買われやすい状況を作り出してしまったことだ。買収を仕掛けられた時点でほぼ勝負あり。企業防衛は攻められてから対策を練っても遅い。

数多くの外食店を手掛けるコロワイドが大戸屋HDを手にする

 「窪田さん、これから買収のために株主提案やTOB(株式公開買い付け)を進めることになりますよ」。2019年12月、大戸屋ホールディングス(HD)の窪田健一社長と向かい合ったコロワイドの野尻公平社長は、こう宣言した。敵対的買収のゴングが鳴った瞬間だった。

 19年10月、コロワイドは大戸屋の実質的な創業者である故・三森久実前会長の妻(三森三枝子氏)と息子(三森智仁氏)から19%弱の株式を取得した。当初は友好的な資本・業務提携か買収を考えていた野尻社長だが「まともに対話に応じない」(コロワイド幹部)ことや、「資本提携のような悠長な手ではなく経営権を取って改革しないと立て直せないくらい業績が急速に悪化している」(同)との判断もあり、敵対的になるリスクを覚悟で買収する腹を固めた。

新型コロナ以前から不振が続く
●「大戸屋」の既存店売上高推移(前年同月比増減率)
20年3月期は赤字転落
●大戸屋HDの業績推移
コロワイド傘下で「大戸屋」はよみがえるのか

 注目すべきは野尻社長が事前に、今後の手の内をすべて窪田社長に明かしていた点だ。「一緒にやっていくことになるのだから、堂々とフェアにと思って」と野尻社長はその理由を明かすが、言い換えれば大戸屋HDはこれから仕掛けられる内容を知りながらも防衛できなかったことになる。

 敵対的買収は心理的なハードルの高さと裏腹に、意外と成立しやすい面もある。なぜか。攻める方は何度失敗してもあの手この手で再び攻められるが、守る方は1つのミスも許されないからだ。買収を仕掛けられた方が逆に買収を仕掛け返す「パックマン・ディフェンス」という手法もあるが、今回は大戸屋HDよりコロワイドの方が企業規模も時価総額もはるかに大きく、現実的ではなかった。大戸屋HDは一回も負けられない専守防衛を強いられたのだ。

 実際、コロワイドは3段構えで策を繰り出し、買収に成功している。まずコロワイドは6月の大戸屋HDの株主総会で、12人の取締役を提案した。この時点では窪田社長らも提案に含めたが、12人のうち過半の7人は蔵人金男コロワイド会長の息子の蔵人賢樹氏や、三森智仁氏らコロワイド側が新しく人選した候補で、事実上経営権を握りに行くものだった。

コロワイドは3段構えで敵対的買収に成功
●大戸屋HDの株価推移

 結果は大戸屋HD側の取締役案の勝利。だが、野尻社長は「基本的には勝てるとは思っていなかった」と話す。「日本の株主総会は会社提案にマルをつける文化。それに我々は委任状争奪戦を仕掛けたわけでもない」

 コロワイド側は株主提案への賛成比率を見ていた。「4割の賛同を得られたら、TOBという次のステップに行こうと思っていた」(野尻社長)。総会当日、出席したコロワイド社員が株主提案に拍手をし損ね、コロワイド自身の議決権が賛成票にカウントされないというハプニングこそあったが、これも含めるとコロワイドの株主提案には42%の賛成(蔵人賢樹氏の場合)が集まった。ボーダーラインをクリアしたことで、予定通りTOBが発動された。

 TOB開始が発表されたのは7月9日。6月25日に株主総会が終了してから2週間後のことだった。大戸屋HDはTOBに対し「不意打ちだ」(窪田社長)と猛反発。株主提案が退けられたことで「コロワイドにノーというのが株主の総意」(同)と解釈していたからだ。だがコロワイド側からすれば、事前に通告した作戦通りだ。

日経ビジネス2020年10月12日号 48~52ページより目次