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三菱鉛筆は、市場の成熟化が進む中で油性ボールペンなどの新たなヒット商品を生み出している。背景にあるのは、長年分散していた商品開発部門と、研究部門の集約だ。技術起点でなく、需要変化への対応を優先するモノづくりへの転換が奏功し始めた。

研究部門を集約した新本社では、部門をまたいだミーティングが頻繁に行われてきた(写真=吉成 大輔)

 「その要望に応えるには、ペン先を改良すればいいかもしれません」

 9月上旬、東京都品川区の三菱鉛筆本社。ホールで社員10人ほどが顔をそろえ、ミーティングを開いていた。参加するのは、筆記具に欠かせない様々な技術を磨く「研究部門」と、市場調査をしてボールペンやサインペンの商品を企画する「商品開発部門」の社員だ。

 部門をまたいだこのミーティングは空き時間に急きょ、集められたものだという。社員の一人は「立ち話の延長で議論が始まることもある。ここ2年では特に珍しいものではない」と話す。逆に言えば、数年前まで、こうしたやり取りは珍しかったということ。それが可能になったのは、2018年に新本社が完成してからだ。

開発プロセス、大きく見直す

 JR大井町駅から商業施設が並ぶ通りを歩いて5分。住宅街の一角にガラス張りの三菱鉛筆本社ビルがある。従来の本社を取り壊し建て直した。旧本社は5階建てだったが、新社屋は6階建てにして、延べ床面積は4倍を超える約1万4000m2となった。

ボールペンが主力
●2019年12月期連結売上高

 新社屋の目的の一つが、分散していた研究部門と商品開発部門とを集約することだった。例えば、主力商品であるボールペンやシャープペンシルの研究部門はそれまで横浜市にあり、商品開発部門が拠点を置く本社と離れていたが、新本社の完成によって、両者が同じビル内に同居することになった。

 「技術起点で商品を形にしていくシーズ型のモノづくりだけで攻めていくのには、限界があると考えた」。3月に就任した数原滋彦社長はその狙いについてこう話す。

 インクの質やペン先の形状など筆記具の基本的な技術を考案する研究部門と、ネーミングやデザインなどを施し製品に仕上げる商品開発部門、そして最終的に筆記具を作る製造部門。この三者をどう配置すれば最適な形となるのか。そんな同社の試行錯誤は1970年代までさかのぼる。

 1887年に創業し、もともと研究・商品開発部門を都心に、製造部門を群馬県など郊外に置いてきた同社が、研究部門と製造部門を近づけ始めたのは1975年のことだ。インクや芯の研究部門を、群馬工場に移転した。研究部門と製造部門を隣接した方が効率的なモノづくりができるとの理由だった。

 時は、筆記具業界でも高機能競争の真っ只中。書きやすく、長持ちし、他社にない機能を持つ。そんな新商品を次々に作るには、研究部門が生み出した最新技術を直ちに製造工程に落とし込み、コンセプトをある程度固めた上で、商品開発部門に渡すやり方が最適だったのだろう。

 製造部門との一体化を進めるとともに、研究部門の人員を増やすなど投資も積極的に実施。2006年に発売し、世界で年1億本を販売する大型商品へと成長した「ジェットストリーム」シリーズなど、技術を武器に多くのヒットを飛ばしてきた。

 だがここ数年は、状況が変わってきた。筆記具市場の成熟が進む中で、「新技術満載の高機能商品」が必ずしも「売れる商品」でなくなってきたからだ。

日経ビジネス2020年9月21日号 50~54ページより目次