駿台予備学校を運営する駿河台学園は、偏差値の高い大学を目指す生徒をターゲットにしてきた業界の老舗だ。幅広い学力層の受講生を獲得するため、AI(人工知能)などデジタル技術で個人に合った授業に取り組み始めた。強みである講師の授業を組み合わせるといった取り組みは、様々な企業にとって事業モデル変革のヒントになりそうだ。
「それでは始めてください」。8月上旬、駿台横浜校(横浜市)で、1時間半の数学の授業が始まった。教室に集まった浪人生が一斉にタブレット端末で、AI教材の問題を解き始めた。解答の内容を間違えると、どんなことを理解できていないのかAIが判断する。その上で、例えば高校2年生で学ぶ箇所へとさかのぼり、テキストや動画で解説したり問題を出したりする。
これは駿台が2020年度に始めた「徹底サポートコース」と呼ばれる講座だ。数学や英語など様々な科目を対象に、基礎からやり直したいニーズを取り込むため新設した。学校の授業のように毎日のコマ立てが決まっており、受講生が教室に来て学ぶ。
講師が教壇に立つライブ授業は原則、毎日あり、AIを使って学ぶ時間と組み合わせる。AIは個人の理解度に応じた学習の道筋を自動で示す。ある男子受講生は「苦手な部分がどこなのか自分では分かりにくい。学び直す道筋を付けてくれるのはうれしい」と話した。
1918年に創立され、予備校大手として最も歴史の古い駿台。今、最新のデジタル技術を活用して学習スタイルを変えていく計画を打ち出している。
2019年には、スマートフォンを使った受講生の自習サポートを始めた。参考書の問題につまずいたとき、問題を講師や大学生ら「プライベートティーチャー」に送ると、手の空いているプライベートティーチャーがチャットや電話で解説してくれる。
20年8月からは自宅でAI教材を使って学んでもらい、遠隔指導する講座「駿台プレミアムリモート学習」を提供している。さらに21年春、AI教材での学習とオンラインでのリアルタイム授業を組み合わせる講座を開くなど、様々な計画がある。
こうした授業スタイルの変革の最大の狙いは、駿台にとって顧客である受講生の幅を広げていくことにある。デジタル技術を使えば、一人ひとりの学力に合わせた指導に近づき、東京大学や早稲田大学、慶応義塾大学、医学部といった難関ばかりが志望でない受講生も獲得できるのではないか、という判断がある。
国内の18歳人口は直近のピークである1992年から4割減った。大学進学率はこの間に約2倍に高まったが、現役志向が強まり、浪人生は減った。駿台は詳細な経営データを公表していないが、受講生の数は80年代のピークの半分になっているという。
駿台グループは、2020年春の東大合格実績(7月末時点の集計)が1373人で、全国トップレベル。ただ、授業の改革を担当する山畔清明専務理事は「大学全入時代の中で、身の丈に合った大学を選ぶ傾向が強まっている」と危機感を強める。駿台模試で偏差値60以上の上位層を取り込むことに腐心してきたが、50台の中位層も積極的に取り込もうとしている。
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