全6172文字

コロナ下にあっても7月まで12カ月連続で既存店売上高が前年を超えているモスフードサービス。開発部門がつくりたいものをつくるプロダクトアウト型の開発が創業以来の伝統だが、その見直しが奏功している。流行を取り入れて稼ぐ道筋はできた。モスバーガーのような定番創出にチャレンジするという次のステージが始まる。

各部門の担当は週に1度は集まる。厨房付きの会議室で試食会が始まった

 「今日は新作バーガーの方向性を決めたいと思います」。7月上旬、東京・品川のモスフードサービス本社。厨房付きの会議室に商品開発とマーケティング、商品流通など、開発から販促を担う各部署の担当者が集まった。この冬に向けて開発してきたいくつもの試作品が出来たてで提供される。

 一斉にかぶり付きながら、おのおのがワイガヤで意見を言い始めた。「ソースは万人向けを狙うのか、ある程度エッジの利いた設計とするのか。あまりに特徴があるとリスクになるかもしれない」「いや、とんがっている方がプロモーションしやすい」

風土が新商品を阻む

 モスフードサービスは2カ月に1度、季節やトレンドに合わせた期間限定商品を発売する。その開発のため各部門の担当から幹部社員まで10人前後が毎週1度はこうして顔を合わせている。

 当たり前の光景にも見えるが、以前はマーケティング担当が意見を言う場はなかった。安藤芳徳上席執行役員マーケティング本部長は「かつては開発が用意した商品の『うまい』『まずい』をみておくだけ。ひどい時には味も試さなかった」と話す。

 モスフードサービスは典型的な縦割り組織だった。商品開発部門が作った商品をマーケティング部門が販促し、流通部門は店舗に材料が行き渡るように手配する。商品開発は作り手の論理を優先し、作りたいものを作るプロダクトアウト型。それで問題はなかった。「モスバーガー」という創業以来のエース商品があり、固定ファンが付いているからだ。

 しかし近年はそれだけでは立ち行かなくなっていた。上質なハンバーガーを望む40、50代の消費者に強いという市場での位置を確立したものの、顧客層が広がらない。既存店売上高は2018年2月から19年7月までの1年半にわたり、2カ月を除いて前年を割り込んだ。700億円強で頭打ちになっていた年間売上高も19年3月期に662億円と前の期比7%減った。長野県で腸管出血性大腸菌O121による食中毒が発生し、販売が落ち込むと、巻き返すすべを持たなかった。

 16年に就任した中村栄輔社長は縦割りの組織自体が悪いとは思わなかったという。営業現場の声を商品開発に生かしさえすればいい。しかし、組織間のコミュニケーションが機能せず、活発に意見が出ない。縦割り組織で作り手優先に陥り、売れる新商品が出ていない。その原因が長年の間に培われた風土にあると就任当初から感じていた。

日経ビジネス2020年8月31日号 54~58ページより目次