全6673文字

日本ハムが高シェアを持つソーセージ「シャウエッセン」に派生品を次々に投入してヒットさせている。新市場を生んでロングセラーに育てた成功体験から、社内に巣くった「味や規格を変えない」という不文律に抗った。シャウエッセンを変えることは日本ハムを変えることにつながる。社風をも改革することができるだろうか。

日本ハムは2018年4月以降、シャウエッセンの派生品を11種類発売した。味違いや他商品とのコラボ品を展開している(写真=北山 宏一)

 7月31日、日本ハムは2021年3月期の連結事業利益(国際会計基準)の予想を上方修正した。340億円の従来予想に30億円を上積み。新型コロナウイルスのため業務用食品が苦戦する中、主力ソーセージ、シャウエッセンがけん引した。国内の巣ごもり需要を受け、強い商品がより強くなっている。

2018年以降、利益率重視に切り替えた
●日本ハム加工事業本部の売上高と利益率の推移
注:‌2018年3月期まで米国会計基準で利益は営業利益。19年3月期から国際会計基準。19年3月期は営業利益。20年3月期は事業利益(営業利益から為替差損益などを調整)

 ウインナーソーセージの定番でシェア2割とライバルを引き離すシャウエッセンはコロナ前の2年間、再び販売を伸ばしていた。市場が伸び悩むなか、小売りベースの販売額の伸び率は18年3月期に前の期比1%増まで縮んでいたが、19年3月期は3%増、20年3月期は6%増え725億円となった。

 それまでプレーンのシャウエッセンのサイズ違いを販売していた戦略を18年に転換。シャウエッセンを使ったピザに続き、19年には味のバリエーションを増やして辛口の「ホットチリ」やチーズを練り込んだ「チェダー&カマンベール」を発売した。これらがヒットしてコロナ下の販売増を支えている。

シャウエッセンは食品の トップブランドの一つ
●カップヌードルとの比較 (金額は小売販売額)
(写真=シャウエッセン:北山 宏一)

 基幹商品を軸に派生商品を開発していくブランド拡張戦略。日清食品ホールディングスがカップヌードルで次々に成功を収めた先例があるのに、日本ハムのシャウエッセンは発売から33年もかかった。容易にシャウエッセンの味や素材を変えられない、日本ハム特有の深刻な理由があったためだ。

 素のままのシャウエッセンしか売らない方針を転換したのが井川伸久・代表取締役専務執行役員加工事業本部長。「君が最後のとりでだな」。井川氏は本部長就任を内示された2年半前、畑佳秀社長に言われた言葉が耳に残っている。

 どうして自分がとりでなのか説明を受けたわけではないが、ピンときた。日本ハムの2大事業本部のうち、食肉の流通を手掛ける食肉事業本部の利益率は10年代を通して2.3%~5.9%。食肉をハムやソーセージなどに加工して販売する加工事業本部は一貫して利益率が低く、1%を切る年もあった。

 数字を何とかすると同時にコンシューマー商品で長く出ていないヒットを生まないといけない。シャウエッセンは1985年発売で、冷蔵加工食品の「中華名菜」や冷蔵ピザの「石窯工房」といった有力ブランドも90年代から2000年代初頭に誕生したものだ。「井川にかける」と言っているに等しい社長の期待に、ヒットが出ない組織の体質という問題があることは感じ取っていた。

 井川氏は加工事業本部に長く籍を置いているが、外食店などに向けた食材を扱う営業担当だった。本部の中では傍流を自称し、コンシューマー商品の事業部にどんな問題が潜んでいるのか具体的には把握していなかった。

日経ビジネス2020年8月17日号 50~54ページより目次