医療分野向けロボットや低速自動運転車など、主力の二輪以外で新しいビジネスを生み出しているヤマハ発動機。ユニークなアイデアや熱意を持つ一人ひとりを「社内起業家」として生かし、新たな事業を育てている。目先の成果や数字だけを求めず、既存の事業や組織の枠にとらわれない仕組みと社風が成果につながっている。

<span class="fontBold">技術者の自由研究が発端となって開発した電動トライアルバイク「TY-E」</span>(写真=上野 英和)
技術者の自由研究が発端となって開発した電動トライアルバイク「TY-E」(写真=上野 英和)
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 高低差や傾斜が厳しい岩肌や障害物の上を足を着かずに走り抜け、その正確さと速さを競う二輪レース、「トライアル」。その世界選手権で2018年に初参戦ながら電動バイク部門の2位に輝いたのがヤマハ発動機の「TY-E」だ。

 高度な制御技術と軽量化を求められるレース車両の開発期間は2年足らず。競技を趣味としていた一人の社員の自由研究がきっかけだった。14年、三輪バイクの開発に携わっていた豊田剛士氏が、社内の様々な部署から15人ほど仲間を集めて電動トライアルバイクの開発チームを立ち上げた。

「5%ルール」でチーム発足

 当時、ヤマハ発の研究開発部門では「エボルビングR&D活動」という制度の導入が試みられていた。今では「5%ルール」とも呼ばれるその制度は、業務時間の5%を日々の研究とは関係ない自由研究に充てるよう奨励するもの。

 メンバーは週に1、2回の会議を重ねてマシンの構想を固めたが、実際に生産しようとすると業務時間の5%の範囲内では難しい。そこで豊田氏は企画内容を技術開発を統括する上長などに伝え、16年4月から「TY-E」が正式なプロジェクトとして動き出した。

 「初めは世界選手権の参加まで頭になかった」(豊田氏)というが、モビリティ技術本部長の島本誠取締役が「どうせやるなら世界を目指せ」と後押しした。18年に続き、19年も世界選手権に参戦し2位を獲得。TY-Eは市販はしていないが、これから市場が本格的に立ち上がる電動スクーターにもノウハウが生かされているという。

 二輪車で10%近い世界シェアを持つヤマハ発。世界最大手のホンダやスズキとは違い、同社の軸足は依然としてバイクにある。19年度の全社売上高1兆6648億円のうち二輪が中心の「ランドモビリティ事業」が約7割を占める。ただここ数年は新興国市場が頭打ち傾向にあり、二輪事業の売上高も1兆円前後で横ばいに推移している。

 代わりに伸びたのが、欧米などでレジャー目的の大型船外機の需要が高まっているマリン事業、そして半導体製造装置などのロボティクス事業だ。

マリンやロボティクス事業がけん引
<span class="fontSizeM">マリンやロボティクス事業がけん引</span>
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 電子部品を基板に配置するチップマウンター(表面実装機)や工場向けの多関節ロボットなどを手掛けるロボティクス事業の売上高は11年度の343億円から19年度には756億円と2倍以上になった。同事業の売上高は全体の4.5%と規模は小さいが、営業利益率は10%以上で収益を支えている。

 ロボティクス事業(旧IM事業)がスタートしたのは約30年前。事業部が立ち上がりこそしたものの、製品が売れずに解散宣告を受けるなど、一時は消滅の危機に陥ったこともあった。「I(いつも)M(もんだい)」事業と呼ばれながら、二輪車部門の工場を間借りしてコツコツと研究開発を継続。今では第三の柱に成長した。

 最初は規模が小さくても、事業の種を粘り強く育てるのがヤマハ発の新規事業の成功パターン。そしてその出発点には、少なからず新しい製品や技術に対して 高い意欲や熱量を持つ個人、いわば「社内起業家」の存在がある。

 これまでの新規事業の代表例が、走行中の振動を吸収する自動車向け「パフォーマンスダンパー」。自動車エンジンなどを手掛けるAM(四輪)事業部のエンジニアで、後に事業部長となるOBの沢井誠二氏が産みの親となった。

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