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ミツミ電機との経営統合をはじめとするM&A(合併・買収)で事業領域を広げてきたミネベアミツミ。貝沼由久会長兼社長が経営トップに就任して11年で売上高が4倍となり、1兆円メーカー入りが視野に入った。京都の日本電産に対し、東のM&A強者と呼ばれる理由は、買収合意後から不断に取り組む綿密な仕込みにある。

スマートフォン向け手ぶれ防止部品「OIS」(右下)と生産するフィリピン・セブ工場(左)。肝臓の動きから利用者の状態が分かるベッドセンサー(右上)

 「売上高が過去最高であったことは間違いない。しかし、5年前から掲げる1兆円にはコロナのため届きませんでした」。新型コロナウイルス危機で世界経済が落ち込む5月8日。ミネベアミツミの2020年3月期決算の投資家向けウェブ会見で、貝沼由久会長兼社長は複雑な表情を浮かべながら語り続けた。

 連結売上高は9784億円で前の期比11%増えている。しかし1兆円未達がよほど悔しかったのだろう。「昨年末までは届くだろうと報告を受けていた。『まさか』が現実になった」と話した。

コロナ下の増益シナリオ

 「4月の売り上げ実績は去年とほとんど変わらない」といい、今期の出足は新型コロナの影響を強くは感じさせない。景気の先行きは読みにくいため、通期予想は幅を持たせた開示となったが、上限シナリオでは増益とし、売上高も悲願の1兆円を掲げた。

 貝沼氏がミネベアのトップに就任してから11年間で売上高と営業利益はいずれも4倍となっている。急速な成長とコロナ下の安定した業績を支える原動力が上のグラフで示した数々のM&A(合併・買収)だ。17年1月にはミツミ電機と経営統合して現在のミネベアミツミが誕生した。これと前後してスイスのワイヤレス技術会社やドイツの計測器大手、日本の自動車部品メーカーであるユーシンを次々に買収。今年4月には日本のアナログ半導体メーカー、エイブリックを傘下に収めている。

 他社を買収し、運営する難しさは根が深い。システムや組織の統合に費用がかかるだけでなく、被買収側のモチベーションを引き上げなくてはいけない。全く予期できない合成の誤謬(ごびゅう)が起きることもある。買収した米原子力事業で巨額の損失を出したかつての東芝のように、管理が甘くなれば経営の屋台骨を揺るがすことさえある。

 10年前まで売上高2000億円強と中堅の域を出なかったミネベアは今、M&Aにより1兆円企業入りをうかがう。事業領域は次々に広がり、センサーから集積回路(IC)、通信部品、モーター、ベアリングとあらゆる基幹部品を手掛けるようになった。総合部品メーカーに脱皮したと言えるが、寄せ集めの印象も拭えない。それでも成長につながっているのは、「人と人をつなげばシナジーは出る」(貝沼氏)という考え方の下、3つの方針を掲げてPMI(買収後の統合作業)に全力を傾けてきたためだ。

日経ビジネス2020年7月20日・27日号 52~56ページより目次