カー用品国内2位のイエローハットの2020年3月期は、市場が縮む中で3期連続の増収増益となった。大型店から小型店まで柔軟に出店して店舗数でオートバックスセブンを引き離し、利益水準でも上回る。12年前の赤字から着実に業績を引き上げてきた。地味だが正攻法と言える取り組みが今、実を結んでいる。

5月中旬、東京東部の環状7号線沿いにある「イエローハット江戸川大杉店」を訪れた。2階建ての1階部分は、6台分ある車の整備場を除くと全面が駐車場になっている。天井と壁は真っ白だ。見た目に明るく、清潔感が漂う。
それもそのはずだ。この駐車場はかつて家電量販大手、ノジマの売り場だった。
2017年春、ノジマの店舗がここから退去するとの情報がイエローハットの店舗開発部門にもたらされた。幹線道路に面した約500坪の敷地と、その上に立つ建物は、まとまった土地がなかなか出ない都内では、貴重な出店候補だった。
居抜きを積極活用
だが、屋外駐車場が9台分しかなかった。客の大半が車で訪れ、車両を預かってタイヤ交換や車検などの整備もするカー用品店にとって、致命的に少ない。そこで店舗開発部から出てきたのが「建物はそのままにし、1階の壁の一部をくりぬいて車両が出入りできるようにする」というアイデアだった。
壁を抜く工事を施し、新たに屋内に14台分の駐車スペースを確保した。物販に加え自動車整備工場としての用途を届け出て、17年11月に開業した。建て替えた場合に比べ、費用は半分程度で済んだという。不動産情報のキャッチから開店までおよそ半年。空白地への迅速出店は収益を引き上げる効果が大きい。
国内で約740のカー用品店を展開するイエローハットは、20年3月期に21店舗を開店した。このうち15店をこの店のような居抜きで出店している。
設備や建物を前の借り主が出ていった時と同じ状態で借り受ける居抜きは、飲食業では一般的だ。だが、整備場を設けるカー用品店のように、特殊な空間や設備が必要な業態では珍しい。ほとんどのケースで異種用途の許可を取る必要があるうえ、広さも建物の仕様もバラバラで、制限が大きい中で店をつくらなければいけないためだ。
「考え方が柔軟じゃないとできないし、うちのことを分かって寄り添ってくれる設計事務所や建築業者でないと受けてくれない」。店舗開発部の坂東悟部長は居抜き出店の難しさをこう話す。
1軒ごとに課題が異なる居抜き活用では、こうした業者との付き合いがあること自体がノウハウだという。江戸川大杉店でも設計、施工の協力業者が消火設備などを配置し直し、壁を抜いて駐車スペースを生み出す荒療治を迅速に行った。
上物を新築すれば初期費用は増えるが、統一感を持った外観にできるうえ、定まったフォーマットで商品構成を決められるなど店づくりの効率はいい。だが、イエローハットは基本が居抜きだ。今ではこだわりとさえ言えるほど居抜きが定着しているが、当初はコスト重視でやむなく始めた策だ。
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