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前代未聞の構想

 有馬氏が振り返る。「教員の半分は外国人で、英語を公用語にした新しい大学を作りましょうと尾身さんに話したら、驚いていましたね」。無理もない。当時の日本では英語を公用語にする大学の創設は前代未聞。当初は国立大学の琉球大学を手直しする案もあったが、東大総長時代に既得権益層が分厚い国立大学で改革する難しさを知る有馬氏が「どれだけ事情に詳しい人がやっても、国立大学を変えるには10年はかかる」と主張したこともあって、大学を一から作る方向性が固まった。

 尾身氏は新設大学のコンセプトを決めるため、ノーベル賞受賞者を中心とする世界の著名科学者を訪ね歩いたという。「あなたが今、大学を作るとしたら、どんな大学ですか」「あなたの研究生活を振り返って、良かった点、変えてほしかった点を教えてください」。そうやって聞き取った結果、理想の大学の条件が見えてきた。「国際性」や、異なる分野の研究を組み合わせる「学際性」を持ち、長期視点に立って研究費を使える「自由度」が高いことだ。

 大学を率いる人材にはこだわった。企業でいえば、取締役会に相当する理事会を構成する19人のメンバーは世界トップクラスの研究者が名を連ねる。大学創設にかかわったノーベル医学・生理学賞受賞者である利根川進・米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授ら国内外の著名研究者の力を借りながら招いた準備機構トップはノーベル医学・生理学賞受賞者の英国人、シドニー・ブレナー氏。17年に就任した2代目学長のピーター・グルース氏も、これまで30人以上のノーベル賞受賞者を輩出してきた世界有数の研究機関、独マックス・プランク学術振興協会の会長を10年以上務めた人物だ。

 世界的に名高い研究者に引き寄せられるように、OISTには優秀な教員や学生が集まる好循環が生まれている。19年には「グルース学長がいる研究機関に行きたい」とマックス・プランクから4人の学生が入学。量子システムを専門にするデニス・コンスタンチノフ准教授も「世界的に優れた成果を挙げた研究者がたくさんいることに魅力を感じた」と話す。

デニス准教授がOISTに来たのは、優秀な研究者が多くいるため(写真=OIST(東郷憲志))

 教員や学生を吸引するもう一つの要因が、日本の大学では非常にまれである「ハイトラスト・ファンディング」と呼ぶ研究資金の提供方法だ。日本の大学では、国から研究費を獲得するにもどうしても短期的に成果を出せるテーマに偏りがち。OISTでは5年を一区切りとして長期目線に立った研究に資金を出す仕組みにしている。グルース学長はこの仕組みこそが、「独創性を高め、ハイリターンな研究を可能にする」と説明。結果的に「短期間での偉業につながる」と強調する。