基幹物流を鉄道に移行するモーダルシフトの追い風を捉え、鉄道事業の赤字体質から脱却しつつある。旧国鉄時代の「お荷物」部門だった企業が浮上するきっかけは、外部の人材を登用したことにあった。「親方日の丸」意識の払拭を目指し進めてきた意識改革がようやく実を結びつつある。

広大な敷地にいくつもの線路が南北に伸びる。コンテナを積んだ貨物列車の先に、視界を大きく遮る巨大な建物が姿を現した。貨物列車が次々と発着する東京貨物ターミナル駅(東京・品川)の南端で今春、稼働を始める物流施設「東京レールゲートWEST」だ。地上7階建て、延べ床面積は東京ドーム1.5個分に相当する7万2000m2に及ぶ。
同ターミナルは羽田空港の国際貨物地区から約4km、東京港の国際コンテナターミナルからは約2kmという交通の結節点に位置し、1日約70本の貨物列車が往来する。取り扱う荷物は宅配便や紙・パルプ、食料品や化学薬品などさまざま。首都圏と地方、さらには海外を結ぶ一大拠点が刷新される。
ターミナルにはこれまで、日本通運や佐川急便、ヤマト運輸といった物流大手などがJR貨物から借りて入居する物流倉庫があった。構内にあることから比較的効率よく鉄道コンテナへ荷物の積み下ろし作業ができたが、入居していない運送業者などはターミナルの外の自社拠点からトラックで荷物を運び込むなり、持ち出すなりする必要があった。3月にまずWEST棟が稼働する東京レールゲートは 「マルチテナント型」というタイプで、フロアの一部を借りるなどして入居できるため、比較的小口の利用も可能になった。
総事業費は、2022年8月に竣工予定のEAST棟も含めて約350億円(計画当初段階の見込み)。JR貨物の営業収益(売上高、19年3月期)の約5分の1に相当する大型投資だ。今後、札幌や名古屋、大阪などにも同様の施設の建設を計画しており投資はさらに膨らむ。
JR貨物がこうした巨額投資に打って出るのは、鉄道輸送に注目する流れが加速しているからだ。EC(電子商取引)の拡大もあり物流量が増大の一途をたどっていること、トラック輸送の人手不足が深刻になっていること、さらには地球温暖化の要因とされるCO2排出の面で鉄道輸送が有利になっていることなどが理由として挙げられる。
1987年の国鉄分割・民営化でJRが誕生して以降、鉄道事業の赤字が常態化してきたJR貨物。幹線物流を鉄道に移行する「モーダルシフト」の追い風を確実に取り込むため勝負に出た一手が、東京レールゲートの整備なのだ。
JR貨物(単独)の2019年3月期は、大きな被害をもたらした西日本豪雨による影響を受け、営業収益が1558億円(前期比1.6%減)、営業利益は44億円(同59.2%減)だった。ただ、慢性的な収益力不足で20年以上にわたって赤字を出し続けていた鉄道事業には光明が見え始めている。17年3月期に、部門別収益を公開した07年3月期以降で初めて黒字化し、翌18年3月期も6億円の営業利益を計上している。
同社が収益力を回復させた裏には、モーダルシフトに加え、社内で進められてきた改革があった。旧国鉄にありがちな「事なかれ主義」がはびこっていた体質を改めるために、積極的に外部人材の知恵を取り入れてきたことが実を結びつつあるのだ。
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