全6191文字

人口減、高齢化、超低金利……。収益環境が悪化する中、新しいタイプの商品に活路を求める。健康への取り組み度合いをポイント化して保険料を割り引くといった、日本になかった保険がヒットしている。南アフリカ企業や異業種との協業を通じて社内の意識を変え、変革を加速させる。

顧客リストを基に今後の営業方針を上司と話し合う高橋美香さん(写真=陶山 勉)

 「このお客さん、まだ健康診断書提出していないね」「はい。今週中にはコンタクトを取りたいと思っています」

 2月のある日、住友生命保険の営業職員である高橋美香さんは、上司と顧客リストを眺めながら、今後の営業予定を話し合った。1000人以上の顧客を抱える高橋さんは、社内でも指折りの成績をあげる営業職員だが、最近さらにやる気が高まっているという。

 秘密は住友生命が2018年7月に発売した「Vitality(バイタリティー)」という商品にある。医療保険や死亡保険など、住友生命の保険商品に付帯できる特約サービスで、毎年の健康診断受診や日々の運動など、継続的な健康増進活動に応じて保険料が変わるという、従来にはなかったものだ。この商品が登場したおかげで、「健康の会話が弾むようになった」と高橋さんは言う。

 特約1件あたりの料金は月額880円。万円単位の保険料に比べればさほどでもないが、その持つ意味は数字以上に大きい。「販売するとき」と「保険金を支払うとき」くらいしか顧客と接点がなかったといわれる保険の世界で、定期的に顧客にアプローチできるきっかけ作りになるからだ。「最近ウオーキングしていますか?」「そろそろ健康診断の結果が出る頃ですね」。高橋さんをはじめとする営業職員は、顧客に声がけがしやすくなったという。

 顧客接点を作り出す「強力ツール」として機能しているバイタリティーだが、従来にはない新商品の開発には、社内の反対派の説得や経験の乏しかった社外との連携というハードルがあった。同社がどう乗り越えたかを説明する前に、まずバイタリティーとはどんな商品なのか整理しておこう。

 バイタリティーは、現在生保各社が注力する「健康増進型保険」の一つだ。低金利や人口減、若年層の保険離れなどで、厳しい経営環境に置かれている生保にとって、新しい保険の魅力を打ち出す商品として位置付けられている。加入者の健康状態に応じて保険料を割り引き、健康増進に向けた動機付けとするのが特徴だ。

 健康寿命を延ばすことができれば保険会社は保険金支払いを抑えられ、国や自治体は医療費の削減につながる。加入者は自身の生活の質が向上する。まさに「三方よし」の保険なのである。

目指すは「三方よし」

 バイタリティーはその中でも「大本命」といわれた商品だった。南アフリカの金融サービス会社、ディスカバリー社が1997年に開発、世界21カ国・地域で1000万人以上が利用している実績があるからだ。

 人気の秘密はIoT技術を活用して健康増進の取り組み度合いを把握し、保険料を変動させる最先端テクノロジーにある。加入者の歩数や心拍数を腕に着けたウエアラブル端末で計測し、データを健康診断の受診状況や運動の取り組みなどと合わせてポイント化。加入者は獲得したポイントに応じて4つのランクに分けられる。最も“優秀”なゴールドを毎年続ければ、最大で保険料は30%安くなるが、取り組み度合いによっては高くなることもある。