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収納用品やペット用品から家電まで。暮らしに関わる様々な製品を手掛ける。その数、約2万5000点。他社に負けないコスト競争力を強みに、消費者が欲しいと思う商品を、消費者が納得する価格で提供する。支えるのは、メーカーでありながら問屋機能を持つことに代表される、何でも「自前」でやる独自の経営モデルだ。

オフィスにある商材の多くはアイリス製品。東京・浜松町には多くの見学者が訪れる(写真=陶山 勉)

 東京・浜松町にあるビルの19階。2600m2の広さがあるフロアには、デスクやソファ、観葉植物などが並ぶ。仙台市に本社を置くアイリスオーヤマが2018年11月に設けた「アイリスグループ東京本部」。家電やLED(発光ダイオード)照明の開発部門に加え、購買や営業、人事などの各部門の社員約230人が働く。

 ここにはもう一つの役割がある。

 「立ちながら仕事をするときは高めにして、座って作業をするときは低めにできます。このボタンを押すことで、デスクの高さを自由に変えられるんです」

 アイリスの社員がデスクや椅子、照明などを指さしながら外部からの見学者に説明する。19年は8086社から見学者が訪れたというから、このオフィスでは日常的な光景だが、単に自社の快適なオフィス環境をアピールしているわけではない。

 フロアにある多くのモノがアイリスの商材。使い勝手やオフィスに置いたときの雰囲気を見学者に体感してもらうことで、オフィス環境づくりを丸ごと請け負う「空間ビジネス」の拡大につなげている。ここはオフィスでもあり、ショールームでもあるのだ。

右肩上がりで業績を伸ばしてきた
●アイリスグループ業績推移

 大山健太郎会長が、自身の父親の逝去に伴って19歳で引き継いだ大阪府東大阪市のプラスチック加工工場を源流に持つアイリスオーヤマ。当初は大手企業の下請けにとどまっていたが、養殖用ブイや育苗箱などを自社開発、製造する産業資材メーカーとして再出発した。その後、クリア収納ケースといった生活用品からプラスチック植木鉢などの園芸用品、ネコトイレに代表されるペット用品などを次々に送り出してきた。09年にはLED電球を商品化、布団乾燥機や炊飯器などにも事業範囲を広げ、商品数は約2万5000点に及ぶ。19年12月期のグループ売上高は5000億円に達した。

 幅広い商品群を持つ強みを生かして、同社が近年、力を注ぐのが空間ビジネスだ。受注額が1件数十億円に上る案件もあるだけに、今後の成長のけん引役としての期待も高まる。

 そんな新事業の最大の強みが、顧客に対して全ての工事を請け負うワンストップ型のサービスだ。工期は競合と比べて3割程度短く、費用も安い。19年12月に東京のJR品川駅近くにオープンしたシェアオフィスづくりをアイリスに委託した野村不動産の宮地伸史郎事業企画課課長は「これまでの物件に比べて3~4割抑えられた」と明かす。

 安さの秘密は、工事そのものをアイリスが自前で手掛けるところにある。通常なら、床工事や照明の取り付け工事はそれぞれ別の専門業者に任せるところを、アイリスは全て自社社員で賄う。こうした工事は国家資格の取得者が手掛けなければならないが、アイリスは工場や営業拠点から社員を集め、資格を取らせてきた。全国の約20拠点に配置された工事従事者らが、各地域での発注に迅速に対応する。照明やデスクといった商材の提供だけでなく、空間設計から施工までを一気通貫で手掛けることで、圧倒的な価格競争力を生み出した。

日経ビジネス2020年2月10日号 60~64ページより目次