国内産業ガス大手のエア・ウォーター。M&A(合併・買収)を繰り返し、農業・食品や医療などの新事業創出に成功した。一発長打狙いの大型買収でなく、数十億円規模の小粒な案件をコツコツ積み重ねてきたのが特徴だ。国内で実績を上げたM&Aとそのシナジーの手法は、今後見据える海外展開でも通用するか。

2019年9月中旬、北海道千歳市にある90万m2の広大な農園ではトマトが畑をはうように鈴なりに実っていた。収穫機が上を走ると瞬く間にトマトでいっぱいの箱が積み上がっていく。近くの搾汁工場では収穫したばかりのトマトがジュースの濃縮原料に加工される。出来上がった原料が長野県のパック詰め工場に運ばれると、缶入りの野菜ジュースが完成する──。
原料の生産からジュースの製造まで一貫して行うこの会社は食品メーカーではない。国内産業ガス大手のエア・ウォーターだ。同社は00年以降、M&A(合併・買収)を繰り返し、事業を多角化することで成長してきた。農園も工場もみな買収によって取得したものだ。
ガス事業の比率は22%に

これまでに同社が手掛けたM&Aや提携の件数は、約200件に上る。00年度には連結売上高2208億円のうち55%を占めていた産業ガス事業の比率は、18年度には22%に下がった。農業・食品や医療といった事業が新たな柱となり、19年3月期の売上高は9年前の約2倍の8015億円となった。営業利益でも新事業が産業ガスに近い規模となっている。
M&A助言会社レコフ(東京・千代田)によると、19年に日本企業が関わったM&Aは前年比6%増の4088件と過去最高を記録した。そのうち、国内企業同士の件数は約3000件という。事業の構造改革や海外市場の開拓を狙い幅広い業種で行われるM&Aだが、その成功率は3割ともいわれている。では、エア・ウォーターはどのようにしてM&Aを繰り返し成功させることができたのだろうか。
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