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星野リゾートを高級旅館・ホテルチェーンの一角に育てた星野佳路代表が現場への権限委譲を急いでいる。不振施設の再生を次々に成功させてきたが、これまで開発から運営まで星野氏の存在感があまりにも大きかった。成長を続けるためにも「脱星野」は欠かせなくなる。カリスマ経営から脱却しようとする姿を追った。

(1)界長門の客室。左奥は星野リゾートの石井芳明氏 (2)建物は音信川沿いにある。3月の開業に向け準備が進む (3)公衆浴場「恩湯」も3月にリニューアルオープンする (4)古民家再生といった街づくりも進む(写真:4点=森本 勝義)

 山口県長門市の山間地にある長門湯本温泉で、星野リゾートが3月に開業する温泉旅館「界 長門」は、2014年に破綻した老舗ホテルの跡地に建設した。経営不振の施設を次々に再生してきた星野リゾートらしい事業といえるが、これまでの取り組みとは毛色が違う。宿泊しなくても利用できるカフェを併設するなど、温泉街のにぎわいづくりを後押ししようとする意図が鮮明だ。

 観光客の減少に悩んでいた長門市は15年、集客のすべに長けているとみた星野リゾートに地域再生のマスタープランづくりを委託した。16年にできたプランに基づき、温泉街には公衆浴場や夜間照明の整備が進む。古民家を商業施設として活用する動きもあり、官民による地域再生が本格化している。

 街づくりと一体化した旅館運営という新たな取り組みを担当するのは信託銀行、コンサルティング会社を経て16年に星野リゾートに入社した35歳の石井芳明企画開発部プロジェクトマネージャー。旅館のコンセプトづくりから、施設完成までを担い、街づくりに向けた地域の会合にも足繁く通ってきた。「温泉街全体にクオリティーがコントロールされたにぎわいが生まれており、大きな可能性を感じる」と話す。

5年で施設数は倍増も

旅館・ホテル網は全国に広がっている
●星野リゾートの運営施設

 数多くの施設を再生して知名度をあげ、国内高級旅館・ホテルチェーンの一角に数えられるようになった星野リゾート。運営施設は増え続け今後5年で現在の2倍の80ほどに達する可能性がある。社員数は約3200人で、施設運営の取扱高は10年で2.2倍の約550億円(19年12月期)にまで成長した。

 その立役者が30年近くにわたって同社を率いる創業家4代目の星野佳路代表であることは衆目が一致するだろう。施設の所有と運営を分離する経営スタイルや地域性を生かした施設整備、フラットな組織づくりを一貫してリードしてきた。カリスマ性もある星野氏に、創業家ゆえの権限集中が結びつき、星野リゾートを成功モデルに導いた。

取扱高は10年で2.2倍に
●星野リゾートの取扱高と社員数の推移
注:社員数は各年の12月1日時点

 だが今、星野氏は自らに依存した経営からの脱却、「脱星野」を進めている。長門湯本温泉でも、以前なら施設づくりも含めて自ら絵を描いてきたはずだが、すべてを石井氏ら開発チームに任せている。4月で60歳と経営者としてはまだ若い星野氏も、いつか経営を退く時がくる。そのための準備を始めなければいけない。

日経ビジネス2020年1月20日号 50~54ページより目次