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三菱重工業が開発を進める国産初の小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」が飛べないでいる。これまでに5度の納入延期を発表し、現在は2020年半ばの初号機引き渡しを予定するが、新たなトラブルが発生。6度目の納期延期も視野に入る。一体、何があったのか。背景を探ると、巨大組織の根深い病根が見えてきた。

電気配線を再設計したスペースジェットの試験機は組み立てに時間がかかった(写真=三菱航空機(株)提供)

 その機体はまだ工場にあった。

 2019年12月中旬、愛知県豊山町。三菱重工業傘下の三菱航空機が開発を進める「三菱スペースジェット(19年6月にMRJから改名)」の最終組み立て工場内では白色のボディーに「SPACE JET」と描かれ、主翼に「JA26 MJ」とナンバリングされた機体が鎮座していた。胴体の下には机とパソコンが置かれ、技術者が6人ほど話し合っている。

 この機体こそ、スペースジェットの今後の納入時期を大きく左右する10号機だ。商業運航に必要な「型式証明」を得るための最終試験用に、関係者によると、当初は19年夏に完成する予定だった。今ごろは米国での飛行試験に臨み、20年半ばの全日本空輸(ANA)への初号機引き渡しに向けた最終局面を迎えていたはずなのに、実際にはまだ愛知県の工場の中だ。三菱重工関係者は打ち明ける。「今のままでは納入延期は避けられない。さらなる問題は、次の納入時期を明言できないことだ」

5度の納入延期を発表してきた
●三菱スペースジェットの開発経緯

 08年3月28日、「航空機生産は長年の悲願」と当時の三菱重工社長、佃和夫現特別顧問が高らかに宣言して始まった小型ジェット旅客機事業。もともと13年後半としていたANAへの初号機納入は5度も延期されてきた。要因は「三菱スペースジェットの開発経緯」の表にある通り、設計変更や製造工程の見直し、部品の納入遅れなど様々だが、18年夏には当時の宮永俊一社長兼CEO(最高経営責任者)が日経ビジネスのインタビューに「もやは晴れた」と明言。20年半ばの初号機引き渡しに自信を見せていた。

 にもかかわらず、スペースジェットは今、6度目の納入延期が視野に入っている。一体、何があったのか。

 関係者の話を総合すると、手間取ったのは飛行機の内部にはわせる電気配線の組み付けだ。三菱重工と三菱航空機は17年1月に5度目の納入延期を発表したが、この理由が配線だった。今や航空機は電子制御で飛ばすと言っても過言ではなく、スペースジェットの配線数は3万本前後。商業飛行にこぎ着けるには、いかなる状況でもショートしないなどの安全性を立証する必要があるが、従来の試験機ではそれが難しいとの判断があった。

 三菱航空機の最高開発責任者、アレックス・ベラミー氏は「温度や振動、湿度などの要求に対応するため、900カ所以上の改良が必要となった」と説明する。その配線の再設計を終え、いざ機体に実装する段階になって問題が発生した。「配線が機体の収容スペースに入りきらなかった」(関係者)のだ。収容スペースを広げれば済みそうなものだが、それができなかった。機体はすでに造り上げてしまっていたからだ。

日経ビジネス2020年1月6日号 50~54ページより目次