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半導体製造装置の市場で世界4強の一角を占める。その強さの源泉は高い技術力と顧客対応力を生み出す人材。くしくも、2015年に米アプライドマテリアルズとの経営統合が破談になったことをきっかけに意識するようになった。社員にもっと活躍してもらうにはどうするか。やる気を引き出す新しい人事制度の導入に踏み切った。

成膜装置の部門で韓国の半導体メーカーを担当する林曉慧氏。得意の語学を駆使して顧客の研究開発部門との折衝を繰り返す(写真=左:尾関 裕士)

 「こんなに長くここで働くとは思っていなかった」

 シリコンウエハーに金属の薄膜を形成する「成膜装置」の営業担当として、韓国の大手半導体メーカーと交渉を重ねる日々を過ごす東京エレクトロンの林曉慧(りん・ぎょうえ)氏は、10年以上の社歴を振り返りながらこう話す。

 台湾の大学を卒業した後に来日し、東京外語大学で修士課程を修めた林氏は、日本語と中国語の間で文書を翻訳するアルバイトをしたことがきっかけで半導体業界を知った。得意の語学力を生かせることや、世界各国で仕事ができるチャンスがありそうなことに魅力を感じて2007年に新卒で東京エレクトロンに入社。ただ、当初は「何年か働いたら台湾に帰るつもりだった」。

 そんな林氏は1年間の技術研修の後、国内企業を2年、台湾企業を5年ほど担当。韓国企業の担当には15年に就いた。「働いている中で挑戦したいことがどんどん出てきた。今もたくさんある。それが残っているうちはここで働き続けたい」。林氏はこう意気込む。

 半導体製造装置の世界市場で15.1%のシェアを持ち、米アプライドマテリアルズなどと「4強」の一角を占める東京エレクトロン。その強さを生み出しているのが、グループで1万人を超える社員たち。「社員こそが価値を生み出す源泉だ」と16年1月に就任した河合利樹社長は胸を張る。

 同社の給与水準は高い。19年3月期の平均年間給与は1272万円(単独の社員1494人)。電気機器業界の上場企業の平均値である約660万円と比べれば好待遇ぶりが分かる。平均勤続年数は18.4年(19年3月末時点)。「離職率は同業と比べても高くない」(土井信人人事部長)。

 直近の給与水準が高いのは、営業利益の一定割合を賞与として支給する制度を設けていることが大きい。同社は18年3月期から2年連続で過去最高の営業利益を達成。半導体の設備投資意欲が旺盛だった好機をがっちりとつかんだ。顧客の投資が減った20年3月期は売上高が前年度比13%減る見通しだが、それでも営業利益率は20%という高水準を維持する。

営業利益率20%超を継続
●東京エレクトロンの業績と主な出来事、世界シェア
経営統合を発表した東京エレクトロンの東哲郎会長兼社長(左、当時)とアプライドマテリアルズのゲイリー・ディッカーソン社長兼CEO(写真=左:共同通信)

 もちろん、カネだけで人材をつなぎ留めているわけではない。「やってみたいという思いを会社が後押ししてくれる」(10年に入社し、今は米グループ会社で経理業務を担当する服部将大氏)仕掛けが東京エレクトロンにはある。

日経ビジネス2019年12月16日号 64~68ページより目次